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2009/07/15

 親族や従業員等に後継者候補がいない場合、M&Aという手法で会社を売却することも可能です。M&Aとは、合併(Merger)と買収(Acquisition)の頭文字で、簡単に言えば、会社そのものを売り買いするという意味があります。

 親族や社内等に後継者候補がいない場合には、従業員の雇用維持、取引先の仕事確保、経営者の老後の生活資金確保等のため、会社そのものを売却し、第3者に経営してもらうことも考えられる選択肢の一つです。近年では、中小企業におけるM&Aの件数が増加しています。

M&Aの種類

 M&Aには、会社の全部を譲渡する方法と、一部を譲渡する方法があります。全部譲渡の方法としては合併、株式の売却、株式交換が、一部譲渡の方法としては会社分割、事業の一部譲渡ばあります。

M&Aを成功させるポイント

①準備段階で秘密を関係者に漏らさない
②専門的ノウハウを有する専門機関に相談する
③事業承継の条件、売却金額の希望等を早い段階で仲介機関に伝える
④デューディリジェンス(買い手企業が行う売り手企業の精査のこと)の際に、交渉相手に対して自社の都合の悪いことでも隠し事をしない
⑤M&A後の会社の環境整備に気を配る
⑥会社の実力の「磨きあげ」を行う
 これらの中でも、特に会社の実力の「磨きあげ」が重要です。そのためには、相手先との交渉に入る前に、次のような項目に特に注意しましょう。
①業績の改善・伸長、無駄な経費支出の削減
②貸借対照表のスリム化(事業に必要のない資産の処分等)
③セールスポイントとなる会社の強みを作ること
④計画的に役職員への業務の権限移譲を進める
⑤オーナーと企業との線引きの明確化(資産の賃借、ゴルフ会員権、自家用車、交際費等)
⑥各種社内マニュアル・規程類の整備
⑦株主の事前整理

売却対象企業の評価

企業買収や合併等を行う場合には、対象企業の評価を行うことが必要です。伝統的な企業評価法には次の2つがあります。
①純資産額法
 対象企業の最終の貸借対照表における資産、負債にもとづき、対象企業の純資産額(総資産から総負債を除いた額)を求め、その純資産額を企業評価額とする方法です。

②収益還元法
 対象企業の現在の収益力と、その企業が将来に計上するであろう収益力を考慮し、この収益力を一定の利子率(資本還元率)を用いて資本に還元したものを企業評価額とする方法です。企業評価額は、純資産額に自己資本利益率(ROE)を掛け資本還元率(国債の利子率などが用いられる)で割り算をして求めます。この方法は、対象企業が獲得するであろう利益と同額の受取利息を獲得するためには、いくらの元本が必要かという観点から、その元本の大きさをもって企業評価の基礎とするものです。

(中小企業庁財務課発行「中小企業事業承継ハンドブック」参照)

2009/06/15

 本来自分の財産は誰にどのようにあげても自由なはずです。しかし民法は、遺族の生活の安定や最低限度の相続人間の平等を実現するために、相続人(兄弟姉妹は除く)に最低限の相続の権利を保障しています。これが遺留分で、相続人からの生前贈与や遺言等によって他の人が過大な財産を取得したために、自分の取得分が遺留分よりも少なくなってしまった場合には、その人が贈与された財産等を取り戻すことができます(遺留分減殺請求権)。ところが、この遺留分が、中小企業の円滑な事業承継にとって大きな制約となっているのです。

遺留分の計算方法

 遺留分の総額は、①遺産に、②相続前1年以内になされた贈与と③「特別受益」(相続人への相続の前渡しの意味合い)の額を加え、そこから④負債を差し引いた額(これを遺留分算定の「基礎財産」といいます)に、遺留分の比率(原則は2分の1。直系尊属だけが相続人の場合は3分の1)を掛けて算出します。

 経営者から後継者に自社株式が生前贈与された場合、何年前になされたものであっても「特別受益」として遺留分算定の基礎財産に加えられますが、その基礎財産に加えられる金額は、贈与された時点ではなく、経営者の相続開始時点での評価によります。

遺留分の事前放棄

 現行の民法でも、遺留分を有する相続人は、被相続人の生前に自分の遺留分を放棄することができます。しかし、遺留分を放棄するためには、放棄しようとする後継者以外の相続人(非後継者)が自分で家庭裁判所に申し立てをして許可を受けなければならないため、放棄のメリットのない非後継者にとっては大きな負担となります。このため、遺留分の放棄について非後継者の了解を得るのは難しいのが実情です。

経営承継円滑化法の民法特例の活用

 このような自社株式などの承継に関する遺留分による制約の問題に対処し、現行の遺留分の事前放棄の制度の限界を補うため、平成20年5月9日に成立した経営承継円滑化法に基づき、遺留分に関する民法の特例ができました。この民法特例は平成21年3月1日から施行されています。

 この特例では、経営者から後継者に生前贈与された自社株式について、遺留分算定基礎財産から除外することができます(除外特例)。また、経営者から後継者に生前贈与された自社株式について基礎財産に参入する際の価額を固定することもできます(固定特例)。

 この特例は、いずれも後継者を含む現経営者の推定相続人全員の合意を前提とするもので、経済産業大臣の確認と家庭裁判所の許可が必要となっていますが、いずれの手続きも、メリットを享受する後継者が単独で行うことができます。このように、民法特例においては、現行の遺留分放棄に比べて、非後継者の手続き的な負担が大きく軽減されています。
(中小企業庁財務課発行「中小企業事業承継ハンドブック」参照)

2009/05/15

 円滑な事業承継を行い、承継後の経営を安定させるためには、後継者や協力的な株主に相当数の自社株式や事業用資産を集中させることが重要です。その方法としては、(1)生前贈与・遺言(2)会社や後継者による買い取り(3)会社法の活用、等があります。

(1)生前贈与・遺言
 生前に何の対策もしないまま経営者が死亡すると、相続財産の大半が自社株式や事業用資産である場合、後継者がこれらを集中的に取得することについて、他の相続人の同意を得ることが難しくなります。したがって、経営者の生前に贈与したり、遺言を作成するなどして、予め対策を講じるのが有効です。

(2)会社や後継者による買い取り等
 すでに分散してしまっている自社株式を後継者に集中するためには、どのようにすればよいでしょうか。
①後継者が他の株主から株式を買い取る
②会社が後継者以外の株主から自社株式を買い取って、後継者の持ち株比率を高める
③会社が新株を発行して後継者だけに割り当てて、後継者の持ち株比率を高める
等の方法があります。

(3)会社法の活用
 自社株式(議決権)の集中や分散防止のためには、会社法のどの制度を活用すればよいでしょうか。

①株式の譲渡制限
 定款で、株式を譲渡する場合に会社の承認を必要とすることにより、自社株式の分散を防ぐことができます。新たにこの制度を導入する定款変更のためには、株主総会の特殊決議(総株主の人数の半数以上で、かつ総株主の議決権の3分の2以上の賛成)が必要になります。

②相続人に対する売渡請求
 株主に対する譲渡制限を行っても、相続や合併による取得には適用されませんので、相続などによる分散を防ぐため、定款を変更して、株式を相続した株主に対して会社がその売渡しを請求することができるようにする、という方法があります。この定款変更には株主総会の特別決議(議決権の3分の2以上を有する株主の賛成)が必要で、売渡請求をする場合にも、その都度、特別決議が必要です。

③種類株式
 株式会社は、普通株式の他に、種類株式(剰余金の配当、議決権等の権利内容の異なる株式)を発行することができますが、自社株式(議決権)の集中や分散防止に活用できるのは、議決権制限株式、拒否権付株式(黄金株)などです。

 議決権制限株式(株主総会での議決権の全部又は一部が制限されている株式)を活用して、後継者には議決権のある株式を、それ以外の相続人には議決権のない株式を、それぞれ取得させて、後継者に議決権を集中させることが考えられます。

 経営者が、自社株式の大部分を後継者に譲るけれども不安が残る、という場合には、経営者が拒否権付株式(一定の事項について、株主総会決議のために、必ず、拒否権付株式の株主総会決議が必要という株式)を保有し、後継者の経営に助言を与えられる余地を残しておく、といった方法があります。
(中小企業庁財務課発行「中小企業事業承継ハンドブック」参照)

2009/04/15

後継者の選定

 後継者を定める際には、後継者として資質のある人を選ぶことが肝要です。後継者としては次のような人がいます。

①親族の候補者
 経営者が後継者の候補者として考えるのは、多くの場合は親族であり、親族の中でも特に子どもが中心です。子どもに後継者としての資質と自覚があれば、関係者の理解も得られやすいでしょう。経営者としての資質と自覚は、後継者教育によって磨くことが可能です。
 子どもに経営者としての資質が備わっていないと判断した場合や、子どもに経営者となる意思がない場合は、他の親族を後継者とすることも考えられます。

②親族以外の候補者
 親族に後継者として適切な人がいない場合は、事業をよく知っている会社やお店で働いている人の中から、後継者の人材を探すというのも方法の一つです。

現経営者の役割

 後継者の決定は、現経営者に発言権や決定権のあるうちに行うことが適切です。後継者候補が複数いる場合には、内紛によって会社の分裂を起こさないように、現経営者が現役のうちに後継者を決定することが必要です。後継者が社長となった後も、現経営者が会長として後継者の経営を背後から支援し、後継者に段階的に経営者としての権限を委譲していく方法もあります。

後継者教育の方法

 後継者を選定した後には、内部や外部で教育を行い、経営者としての能力や自覚を築きあげます。置かれた状況により取るべき方法は異なりますが、円滑な事業承継のためには意識的な後継者教育が不可欠です、。具体的には次のような方法があります。

①内部での教育の例
・各部門(営業・財務・労務等)をローテーションさせることにより、会社全般の経験と必要な知識を習得させます。
・役員等の責任ある立場につけて権限を委譲し、重要な意思決定やリーダーシップを発揮する機会を与えます。
・現経営者の指導により、経営上のノウハウ、業界事情だけではなく、経営理念を承継します。

②外部での教育の例
・他社での勤務を経験させることで、人脈の形成や新しい経営手法の習得が期待でき、従来の枠にとらわれない新しいアイデアの創出の基盤を作ります。
・後継者に一定程度の実力が備わった段階で、関連会社等の経営を任せることにより、経営者としての責任感を植え付けるとともに、資質を確認します。
・後継者を対象とした外部機関によるセミナーを活用することで、経営者に必要とされる知識全般を習得でき、後継者を自社に置きつつ幅広い視野を育成することができます。

2009/03/15

事業承継対策の大切さ

 中小企業は、企業数で全体の9割以上、法人・個人事業主を含めると、約433万とされています(中小企業白書2006年版)。また、雇用では約7割を占めており、優れた技術を持つ中小企業の健全な発展のために環境を整備し、未来に継続していくことは、日本経済が継続的に発展を続けていくために必要不可欠なことです。

 ここ20年間で中小企業の経営者の平均年齢は58歳となり、6歳近く上昇しています。このような高齢化の進む中にあっても、事業承継は①経営者にとって遠い将来の話である②経営者が影響力を維持したい③「死という不幸」を連想させる問題であり避けていたい、ことを理由としてその対策を先送りしがちです。

 中小企業の経営者自身が考える引退予想年齢の平均が約67歳であることを踏まえてみれば、過半の中小企業が今後十年程度の間には、この問題の対応に迫られることになるでしょう。

事業承継計画の必要性

 男性の生存率表のグラフを見ると、経営者の平均年齢となっている60歳前後から、生存率のカーブは大きく下降し始めます。また、急病等によりある日突然経営を行えなくなり引退することになる可能性も十分に考えられます。

 それでなるべく早い時期から着実に事業承継の準備を進めておくことが必要です。親族内で承継する人がいるならば、その人に社内業務を理解してもらうための教育を行うことも必要でしょう。また、自社株式や事業用資産の後継者への集中を円滑に進めることも一朝一夕に済む話ではありません。

 また、親族内で承継する人がおらず、社内または社外から承継する人を選ぶならば、その選定と社内にその人が受け入れられるようにするような方策を考えなければなりません。M&A等により会社を売却するにしても、買い手を見つけることも簡単な話ではありません。十分な時間を取って確実に進めていくことが必要です。

事業承継の内容

 経営者から後継者へ事業を承継するという場合、次の2つの内容に応じた配慮が必要です。

①経営そのものの承継
 後継者は、経営者として必要な業務知識、人脈、リーダーシップ等のノウハウを習得することが求められます。さらに、事業承継の本質は、経営者の経営に対する思いや価値観、態度、信条といった経営理念を伝えることです。現経営者は自社の経営理念を明確化し、「何のために経営をするのか」を後継者にきちんと承継します。

②自社株式・事業用資産・資金の承継
 後継者が安定的に経営をしていくためには、後継者に自社株式や事業用資産を集中的に承継させることが必要です。経営者に子どもが複数いて、そのうちの一人を後継者とする場合には、後継者でない子どもの遺留分を侵害することがないように、自社株式や事業用資産以外の財産を後継者でない子どもが取得できるようにして、相続紛争を未然に防止することが必要です。
また、後継者や会社は、自社株式や事業用資産の買い取りや相続税の納付のため、多額の資金が必要になる場合があります。事前に必要な資金を確保しておくことも大事なポイントです。