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2008/05/15

 起業時の人材確保を考える時、問題は大きく分けて2つあります。1つはコアとなる起業時メンバーをいかに選ぶかということです。常勤の取締役になるような人たちのことです。

もう1つはその周辺で働く人たちの確保です。彼らや彼女たちは重要な役割を担うものの、起業時のメンバーとは異なり、志まで企業家と共有しているケースは少ないのです。業界内でも知名度がそれほど高くない中で、いかにして優秀で意欲の高い社員を確保するかが課題であるものの、高い給与を支払うことなどは創業間もない企業にとっての選択肢にはなりえません。

起業時パートナーの条件は目標の共有

 国民生活金融公庫総合研究所の「新規開業実態調査」(2003年度)によると、開業時の平均従業員数は3.2人です。これにはパート、アルバイトが含まれているので、正社員としてスタートアップ時から参加するのは、一人か二人というのが平均像です。もしこのような小さな所帯で喧嘩ばかりしていたら、生き残ることなどできません。意思決定の迅速さとチームワークの良さが若い企業の競争優位でもあり、その基本となるのがメンバー同士の相性の善し悪しです。

 「相性と目標の共有」が創業メンバーを選ぶときの基本です。「ちょっと性格が合わないけれども、あいつは仕事ができるから」という理由でパートナーを選ぶのは危険です。相性が良いかどうか、そして目標を共有できるかどうかを見極めるには時間がかかります。配偶者、同僚、そして友人・知人を経営上のパートナーに選んでいるのは、そのことを裏付けています。

一般従業員に対しては働き方に新しさを

 起業時のメンバーが核になって、その周りに一般の従業員が集まり始めます。優秀な従業員を集めているのはどのような企業でしょうか。そのキーワードの1つが自主性や個性の尊重でしょう。
消費者や最終ユーザーなどは、新しい企業が提供する財・サービスの新規性に着目します。それと同様に、創業期の企業で働いてみようという人たちは、今までの企業では実現できなかった働き方を求めてやってくることが多くあります。その求めることの1つが自主性や個性の尊重です。

 それでは、その時経営者に求められることは何でしょうか。ある会社の社長の答えは、「忍耐力」と「感動を与えること」だといいます。けっこうハラハラドキドキの連続であり、感動を与えるにはタイミングよく仕事をサポートしなければなりません。しかし、見守る努力と育てようという意志があれば、創業期の人材不足を克服できる可能性は高い。働き方に新しい機軸を打ち出すことによって、既成の組織では能力を発揮しにくかった優秀な人材を確保することは、とりわけ女性起業家が得意とするところでもあります。

2008/04/15

カズム理論の応用

 創業間もない企業が新しい商品やサービスを販売したときに、多かれ少なかれ共通して見られる現象があります。それは、「少しは売れるけれど沢山は売れない」ということです。

 このような現象を説明する理論のひとつに「カズム(断層)理論」があります。これは、新商品や新サービスを受け入れる市場は一様ではなく、いくつかの異なったグループによって構成され、少しだけ売れる市場とたくさん売れる市場の質的な違いに着目したものです。

 第1グループは、何か新しい商品やサービスが発表された時、とにかく試してみようという人たちです。第2グループは目利きができる人たちです。本当に値打ちのあるものを手ごろな価格で販売していれば、自分自身の判断で買います。新商品や新サービスを市場に出すと、第1グループと第2グループまでは比較的順調に売れます。ここで投資金額が回収できれば問題ないのですが、一般にはこの程度の販売量では投資を回収するところには至りません。問題は第3グループ以降です。

 第3グループは、世の中の新しい動きに敏感ではありますが、必ずしも自分自身で目利きはできません。しかしながら、彼らは自分たちと同じような集団に影響されながら、流行を創造し、市場の流れを決定づけます。例えば新しい金融サービスについて、外資系銀行の動きには影響されないものの、邦銀の動きには素早く反応したりする日本の銀行です。第4グループは流行を後追いし、最後のグループは新しいものがどうしても嫌いだという人たちです。

 カズム理論によると、いかに第3グループを動かすかがポイントになります。「目利きができる人だけに買ってもらえればよい」というのもひとつの戦略ですが、そのような方法で行き詰まっている場合はカズム理論の応用によって戦略を再構築することも必要でしょう。

市場の即応性

 創業間もない企業の財・サービスが売れない理由をもうひとつ別の角度から見てみましょう。カズム理論ではマーケットの異質性に着目してこの現象を解説しましたが、ここでは市場の即応性という概念を使って考えます。

 例えば「24時間保育サービス」という事業があります。休日や祭日、又は夜遅くまで働く女性にとっては、平日の午前8時から午後8時くらいまでが営業時間である自治体に認可された保育園は使い勝手が悪い。そのような状況の下で、「24時間保育サービス」を始めた場合、そのサービスに興味を持たせたり、欲求を喚起させたりする必要はほとんどありません。単に知ってもらうだけで、潜在顧客はすぐに購買行動を起こしてくれるでしょう。このような場合、市場の即応性が良いと言えます。

 市場即応性の良い財・サービスは、ひと言で言えばAIDA(アイダ)論において、最初のA(Attention:注意を促すこと)をクリアーできれば、I(Interest:関心を持たせること)、D(Desire:欲求を喚起すること)のプロセスを経ることなく、一気に最後のA(Action:行動を起こさせること)にジャンプできるようなものです。

2008/03/15

 マーケティングはこの分野の権威である米国のコトラー教授によると「製品価値の創造・提供・高揚を通して、個人・企業が必要かつ欲求するものを獲得するために社会に働きかけたり、管理を行ったりする行為」と定義されます。具体的には、①企業の内部環境と外部環境を分析し②標的市場を決定し③狙いを定めた市場を獲得するために、製品開発、周知活動、流通チャネル開拓、そして価格設定という活動に大きく分けることができます。

 製品開発(Product)、周知活動(Promotion)、流通チャネル開拓(Place)、そして価格設定(Price)はマーケティング活動の中核をなすものであり、通常4Pと呼ばれ、この4Pの組み合わせをマーケティング・ミックスと言います。

売れない理由とAIDA(アイダ)論

 財・サービスが消費者や最終ユーザーのニーズをそもそもつかんでいない場合や価格が高すぎる場合は、売れなくてもやむをえません。4Pの中の製品開発や価格設定に失敗したということになります。しかし、売れない理由は他にもあります。

 売れないということは、消費者や最終ユーザーが財・サービスを買わない、もしくは買えないということですが、その理由を①知らないから②興味がないから③欲求がないから④購買行動を起こせないから、という四つの段階に分類し、それぞれの段階に応じて①注意を向けさせる(Attention)②興味を持たせる(Interest)③欲求を喚起させる(Desire)④行動を促す(Action)、という異なった対応をとることによってマーケティング活動をより効果的なものにしようという考え方が、各段階の英語の頭文字をとってネーミングされたAIDA(アイダ)論と呼ばれるものです。

プッシュ戦略とプル戦略

 創業間もない企業は、機能面や価格面で優れた財・サービスを開発しても、知名度と流通チャネルへのアクセスが隘路になることが多い。購買プロセスにおける第一段階(Attention)と最終段階(Action)への対応が苦手なのであり、一方、興味(Interest)や欲求(Desire)を喚起することは、財・サービスの機能面のユニークさもあり、むしろ起業家が得意とすることです。

 卸売業者や小売業者などの流通チャネルに直接働きかけて、そのチャネルを通して最終ユーザーや消費者にアプローチする方法はプッシュ戦略と呼ばれます。一方、消費者などに直接働きかけ、財・サービスに興味を持った消費者などが流通チャネルに働きかけるように仕組む方法はプル戦略と呼ばれます。

 プル戦略で認知度を上げ、消費者や最終ユーザーから流通チャネルに働きかける戦略は、業歴の浅い企業にも有効です。しかもインターネットの発達によって、直接消費者などにアクセスすることが容易になり、購買プロセスの第一段階と最終段階で起業家が苦労してきた状況は、徐々に改善されていると言えるでしょう。

2008/02/15

ビジネスモデルと競争優位

 ビジネスモデルとは事業機会を実現するための仕組みであり、事業機会、供給システム、そして経営資源の有効な組み合わせです。どのような事業機会を狙うのか、いかなる供給システムを構築するのか、どのような経営資源をどのように調達するかは、起業家の置かれた初期条件、歴史的経緯、そして起業家自身の考え方によって決定されます。いくつもの要素が組み合わさってできるビジネスモデルはユニークであるのが当然であり、「かたち」が分かれば真似ができるというものではありません。

 しかし、ある市場における優位性を決定する要因は多種多様であり、必ずしも最初に市場を開拓した企業が新市場の恩恵を享受できるわけではありません。

 問題は、経営戦略の模倣をいかに困難にすることができるかということです。その際、VRIO(ブリオ)分析と呼ばれるフレームワークがよく使われます。VRIO分析とは、Value(価値)、Rarity(希少性)、Imitability(模倣性)、Organization(組織)の頭文字をとったものです。経営戦略のベースとなる経営資源等を、そもそも価値を持っているのか、同業他社が保有していないという希少性があるのか、模倣が困難であるか、ユニークな経営資源を生かす組織が構築されているのかという四つの視点から見ることによって、戦略の有効性を判断するものです。当然、四つの要因とも「NO」であれば競争優位性は劣位であり、四つの要因とも「YES」であれば持続的優位を保つことができます。

新規性の連鎖

 起業家が発見した新しい事業機会は「新しい」ということだけでその後の事業展開の有効な武器になるものの、「新しい」がゆえに事業機会を実現する方法も確立されていないことが多くあります。起業家は新しい事業機会を認識した後は、それを実現するための方法も自ら考え、構築しなければなりません。

 高級家具に特化し、堅実な実績を残している企業に大塚家具(東京都江東区)があります。同社が家具業界で注目を集めるのは、単に業績の好調さだけでなく、ビジネスモデルに特徴があるからです。多店舗化や利便性重視の立地戦略をとる同業者が多い中で、大塚家具は店舗数の絞り込み、店舗の大型化、そして便利とは言えない場所への立地を図り、業績を伸ばしています。店舗の大型化を図ることで品揃えを充実させ、不便な場所でも行ってみたいという意欲を引き出し、またわざわざ足を運ばせるというフィルターを設けることで、購買意欲の高い顧客を来店させます。購買意欲の高い顧客に対して、専門教育を受けた専任アドバオザーによるマンツーマンの接客を行い成約率を高め、さらに販売コストを吸収するために高級家具に絞り込んでいます。

 同様のニーズを満たすにもさまざまなビジネスモデルが存在します。一つの企業にとってビジネスモデルは結果的には一つしか生まれませんが、その一つとは無数にある選択肢の中の一つということです。

2008/01/15

 事業機会は消費者や最終ユーザーから構成される市場と財・サービスの新しい組み合わせと考えることができます。財・サービスに新規性がなくても、投入する市場が新しければ、それは事業機会であり(日本の焼酎を中国市場に売り込む等)、提供の方法を変えることによって新たな市場をつかむことができる場合(宅配ピザや宅配寿司等)も事業機会といえます。

 事業機会は誰にでも見えたり認識できたりするものではありません。見える人には見え、見えない人には見えません。事業機会は大きな神社・仏閣とは違います。事業機会の認識プロセスが非常に主観的なので、、事業機会自体が創業間もない企業の競争優位となりえます。

認識プロセス

 事業機会は認識されるものであり、①事業機会のヒントとなる出来事に出会うことができるか(対象物)、②起業家が置かれた環境はどうであったか(環境)、③起業家の能力や問題意識などがどの程度のものであったか(認識者)の三点が重要であり、事業機会の認識プロセスで優位性を発揮するためには、この3点のいずれか、もしくはすべてに特徴がなければなりません。

起業家的な着眼点

 事業機会は環境変化から生まれます。例えば今どのような財・サービスへの需要が伸びているかを認識することが重要です。しかし、急成長している財・サービス自体は魅力的な事業機会とは言いがたいことが少なくありません。すでに先発企業がブランドを確立し、また流通チャネルも築き終わっている時は特にそうです。

 1948年に始まった米国カリフォルニア州のゴールドラッシュで一番富を得たのは、運よく金鉱脈を発見した人ではありません。金鉱脈を探しに来た人たちにズック袋やデニムのズボンを販売したリーバイスの創立者リーバイ・シトラウスが一番の富を得たと言われています。

 すでに起きた変化を追いかける(鉱脈を探す)のではなく、あたかも変化を待ち伏せするような視点(山師が必要とするものが何かを認識し彼らに提供するものを発見した)が起業家的視点と言えます。

投資家は人物を見る

 投資家が新しい事業に投資する際に、人物評価にウエートを置く場合が多くあります。極端な場合、事業の内容が理解できなくても起業家が信用できるとなれば出資する人もいます。

 米国のベンチャーキャピタルの生みの親ジョージ・ドリオットは、「一流の人物であればビジネスプランが二流でも投資に値する」と、またインテルやアップルコンピューターに投資を行った伝説のベンチャーキャピタリストであるアーサー・ロックは、「私はアイデアではなく人に投資する」と言っています。

2007/12/15

水準が低い日本の起業活動

 国の経済の骨格を形成する多くの企業の出発点は、創業者による起業活動から始まっています。日本では、起業活動の水準を見る時、一般には総務省による「事業所・企業統計調査」が使われています。調査員が実際に事業所や企業を訪ねて調査票を配布・回収する方法をとりますが、前回調査時には存在せず今回調査時に存在した事業所や企業が新しく誕生した企業として認識されます。

 この調査による1年間に誕生した企業数を分子に、調査時点の期首年における総企業数を分母として「誕生率」を計算すると、新たに誕生した企業数と同様に誕生率も近年低下傾向にあることが分かります。

 誕生率を1999年~2001年の間で、米国、英国と比較してみると、日本は3.1%であるのに対して米国、英国では計算のし方が日本とは異なっている点はあるものの、3年間の平均値は10.1%、10.4%と日本の水準と比べると、相当高くなっています。

起業構造

 起業活動の基本的構成要素は次の3つです。

①財・サービスと市場との整合性の新たな可能性(事業機会)の認識
 どのような事業機会を認識するかは、起業の成功と失敗を分ける大きな要素であり、また起業活動の複雑さを決定する要因でもあります。市場の成長性(ある・なし)と財・サービスの差別力(ある・なし)で事業機会を類型化すると、最も成功の確率が低いものは成熟市場(成長性なし)に差別力のない財・サービスを投入することでしょう。他の3つは成功の確率という面では大きな差はありません。

②財・サービスを顧客に供給するシステムの構築
  「製品・サービスの開発」→「製品やサービスを組み立てるのに必要な材料や部品の調達や外注先の確保」→「製造やオペレーション」→「流通チャネルや物流チャネルの確保」→「マーケティング」の順で供給システムを作ります。

③諸活動を支える経営資源の調達
 資金、人材、設備、信用等の経営資源が確保できなければ、事業は前に進みません。例えば、資金集めに際しての最初のハードルは資金の出し手に事業内容や事業の可能性を理解してもらうことです。

既存企業との違い

 既存企業が新たな事業を展開する場合、すでに行っている事業との関連性を重視します。そのための活動を支えるロジックは「規模の経済」(生産や購買規模が拡大する際にそれに伴う平均費用が減少すること)、「学習効果」(ある取引や活動の過去からの蓄積によってそれに伴う費用が減少すること)、「範囲の経済」(ある経営資源を一つの活動のみに使うよりも複数の活動に使った方が効率的になるという考え方)などです。

 起業活動ではこれらのロジックのベースになるものは存在しないので、同じ事業機会を既存企業と争っても良い結果が得られません。起業家が認識した事業機会は既存企業が進出していない分野です。そこは未知の世界です。