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2011/03/15

 民法の物権編は9つの権利を挙げています。第1のグループは用益物権と呼ばれるもので、所有権・地上権・永小作権および地役権であり、第2のグループは担保物権と呼ばれるもので、留置権・先取特権・質権・抵当権です。占有権(自己のためにする意思をもった物の所持という、事実支配状態そのものに認められる権利)は、このいずれにも属さないので、ひとつの特別のグループに属します。

 占有権は除いて、他の権利のうちで、所有権とその他の7つの権利との間には、いわば質的な差異があります。7つの権利は、目的物の利用価値の一部分だけをその内容とするのに対して、所有権は「何でもできる」という万能の内容を有する権利です。それで、この7つのものを制限された利用方法だけを内容とする物権ということで、所有権に対して制限物権と呼びます。

物権の変動を目的とする法律行為
 176条に「物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによってその効力を生ずる」とあります。設定とは他人の所有権の上に所有権以外の物権、すなわち制限物権を、当事者の意思によって創設することであり、移転とは、所有権その他の物権を当事者の意思によって、その帰属者から他の者に移すことを指します。それを当事者の「意思表示のみによって」効力を生ずるというのは、その他の要件を必要としない、という意味です。
ドイツ民法やスイス民法では、不動産所有権の移転や不動産の上の抵当権の設定は、これを目的とする意思表示だけでは効力を生ぜず、登記をしてはじめて効力を生じます。また、動産所有権移転は、目的物の引渡しをしてはじめて効力を生じます。それに反し、日本の民法では、登記や引き渡しは不要です。後で述べるように対抗要件(第三者に自己の権利を主張するための要件)に過ぎません。

不動産物権変動の対抗要件

 Aがその所有の土地をBに売ったが、まだAからBへの所有権移転登記をしない間に、Aが同じ土地をCに売って即日登記をしたときに、ABCの間の法律関係はどうなるでしょうか。「不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない」(177条)により、BがCに「Cが買う前に自分はA所有の土地の所有権を取得したのだから登記を抹消して自分に引き渡せ」と主張したとしても、CはBの主張をしりぞけることができます。BはただAに対して損害賠償の請求をする(売り主の責任を追及する)ことができるだけです。

 このことはCが悪意(A所有の土地はすでにBに売られたことを知っている)であったとしても、BはCに対して所有権の取得を対抗できません。「不動産の取引の安全を図る制度だと言うなら、Cが善意(A所有の土地はすでにBに売られたことを知らない)の場合だけを保護すれば十分であって、悪意の場合まで保護する必要はない」と言えそうですが、現実には善意か悪意かを簡単には割り切れず、Cが悪意のときはBは対抗できるとしてしまうと、不動産取引は際限のない紛争に巻き込まれるおそれがあります。それで、177条は「善意の第三者」とはせずに単に「第三者」としました。しかし、Bが登記を受ける気でその申請をしようとするのを妨害したり、Bからその登記手続きを委任されて引き受けながら、その信頼を裏切ったような場合(「背信的悪意者」といいます)までCを保護する必要はないとして、この場合はBは登記なくして物権変動をCに対抗できます。

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