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2016/12/15

 永遠の課題とされてきた「緩まないねじ」を発明した道脇裕氏は、小学校のころ年度初めにもらう教科書を数日のうちに読み終えるほどの天才で、みずから小学校を自主休学して、漁師、とび職、新聞配達等の職業を経験したという。

 そして、大人になり、自分に不足している能力として、読解力等のいろいろな能力を列挙していた時に、それらはすべて小学校や中学校で学ぶこととされている基礎的な能力であることを知り、「ああ、学校で学ぶことは将来大人になったときに効率的に仕事や社会生活を送れるようにと考えられていたんだ。そういうことだったのか」と感じたという。道脇氏ほど、義務教育の素晴らしさを体感した人はいないかもしれない。(NHKプロフェッショナル)

 私は申請取次行政書士として十年ほど仕事をしている。「外国人と結婚したので、配偶者の在留資格の認定が欲しい」とか、「外国人を雇用しているので就労資格の期間更新をしてほしい」とか、「母国から来日しこれまで会社員として働いていたが会社を設立して経営者として活動するための在留資格に変更したい」等の相談を受ける。

 入国管理局は、日本人配偶者の戸籍に籍を入れた申請人であっても、現実に偽装結婚をする人がいるので、審査が厳しく容易には在留資格の認定を得ることはできない。どこで知り合いどのような交際をしてきたのかを、写真やメールの交流録を開示し、法的つながりだけではなく心のつながりがあることを証明しなければ認めてもらえない。

 就労資格においても、新たに料理店を開くために経営者としての在留資格が欲しい場合は、店舗を借り、店内の調度品等の内装や看板等の外観を整え、コックを採用しメニューを完成して初めて申請できる。しかし、そのような大きな投資をしても、事業計画や取引先が不適切と判断されれば認めてもらえない。外国人が起業するには高いハードルがある。

 私は申請取次業務を開始したころは、外国人申請人と同様に、審査がとても厳しいことに反発を感じることが多かった。しかし、示される基準を全うしていくように努力していく中で、申請人が幸福で実りある日本における活動ができるようになることを感じ始めるようになった。「ああ基準が厳しいというのは、そういうことだったのか」と思うようになってきた。外国人申請人にもそのように思ってもらうようにするのが、私の仕事の一つとなった。

 人は幼少期に親の愛を受けて育っても実感できないことが多い。子を持ち親となり、初めて親が自分に厳しく、また優しく接してきたことの意味を「ああそういうことだったのか」と感慨深く知ることとなる。

 体験したことの意味を後になって初めて悟るのは、人間は成長していく存在である以上、仕方がないことだ。できれば、多くの体験を積み、早く悟りに至りたいものだ。