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2012/06/15

会社の合併

 2つ以上の会社が契約によってひとつの会社に合同することを、会社の合併といいます。合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併後存続する会社に継承させる方法(吸収合併)と、合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併により設立する会社に承継させる方法(新設合併)があります。経営の合理化、競争回避、市場占有率の向上などを目的とする企業結合のひとつの形態です。

 合併はまず取締役会の決議に基づいて、代表取締役が合併契約書を締結し、株主総会の合併承認決議を得なければなりません。ただ、存続会社などが組織再編の対価として交付する株式などの財産価額が、存続会社などの純資産額の5分の1以下などの要件を満たした場合、原則として承認株主総会を不要とする制度(簡易組織再編)があります。なお、合併によって会社の権利義務は包括的に承継されるから、解散する会社の清算手続きは不要です。

 存続会社などが株主にも債権者にも重大な影響を与えることから、反対株主の株式買取請求権や債権者保護手続が規定されています。存続会社(新設会社)は、合併に際し、解散会社の株主に対して株式を割り当てます。その割当比率を合併比率と言います。合併契約の実務上、最も重要な点です。ただし、仮に合併比率が不当であったとしても、その合併契約の承認決議に反対した株主は、会社に対して株式買取請求権を行使できるから、合併比率の不当・不公正それ自体は合併の無効原因とはならないとする判例があります。

事業譲渡

 一定の営業目的のために組織化された機能的財産を一体として移転し、譲受人が営業者たる地位を承継し、譲渡人が法律上競業避止義務を負うことを、事業譲渡と言います。

 譲渡会社は、原則として同一市町村および隣接市町村において20年間の競業避止義務を負います。また、譲受会社が譲渡会社の商号を引き続き使用する場合、原則として譲渡会社の債務を弁済する義務を負います。譲渡会社においては、事業の全部譲渡または重要な一部の事業の譲渡においては株主総会特別決議が必要ですが、譲受会社においては全部譲渡の場合のみ株主総会特別決議が必要です。事業譲渡に反対する株主は、原則として株式買取請求権を有しますが、債権者保護手続きは不要です。

会社分割、株式交換と株式移転

 会社が事業の一部または全部を他の会社に承継させ、その事業を自社から分割し外部に出すことを会社分割と言います。株式会社または合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部または一部を分割後、他の会社に承継させることを吸収分割と言い、1または2以上の株式会社または合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部または一部を、分割により設立する会社に承継させることを新設分割と言います。

 吸収分割契約・新設分割計画について、原則として株主総会特別決議による承認が必要です。会社分割に反対する株主は、原則、株主買取請求権を有し、債権者の利害に重大な影響を及ぼすおそれがあるため、原則として債権者保護手続きが必要です。

 ある会社(株式交換完全子会社)の株主が有するすべての株式を、他の会社(株式交換完全親会社)の株式と交換する方法を株式交換と言い、会社の買収を、現金の代わりに自己株式を利用して行うことが可能となります。一方ある会社(株式移転完全子会社)の株主が保有するすべての株式を、新たに設立する会社(株式移転設立完全親会社)の株式と交換する方法を株式移転と言います。

2012/05/15

資本制度の変容

 平成18年5月1日、「会社法」という新しい法律が創設されました(これまで会社法と呼ばれていたのは、「商法(第2編会社)」と「有限会社法」と「株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律」の3つの法律をまとめた俗称でした。)。会社法施行以前は、資本とは、会社財産を確保するための基準となる一定の金額と説明されていました。株式会社では、株主は間接有限責任を負うにすぎず、それは株式引受人の引受価額を限度とする責任です。会社債権者にとっては、債権の満足を得るためにあてにできるのは、会社財産だけですから、会社財産がある程度確保されることが必要になります。このために認められたのが資本の制度でした。つまり、会社財産がこれ以上下回ってはならないという基準となる金額が資本です。そして、この制度は債権者保護のための制度であったのです。

 しかし、資本額を定めているだけでは、債権者保護に役立たないということが分かってきました。資本制度が債権者保護に役立たないとすれば、単に会社設立の自由を阻害する制度にすぎなくなります。そこで、会社法は、資本金額を問わない(資本金一円でも会社設立が可能)とする一方で、債権者保護のため、余剰金分配規制という制度を設けました。まず、剰余金(貸借対照表の資産の額から負債額・資本金額・準備金額等を控除した金額)が存在することを求めます。その上で、この剰余金からさらに自己株式の額等を除いた残額(これを分配可能額といいます)を超えての配当等をさせないことで、会社財産が不当に流出するのを防ごうとしているのです。

 さらに、会社の純資産額が300万円以上でなければ配当することはできないという、最低純資産額規制の制度ができました。このように、会社法は、資本制度を変容することで会社設立を簡単にし、かつ債権者保護の役割を剰余金分配規制という新たな別の制度に担わせることにしました。

株式会社の資金調達

 株式会社の「株式」とは、出資者である株主の地位を細分化して割合的単位の形にしたものであり、それは、多数の者が株式会社に参加できるようにするための法的技術であると言えます。すなわち、株主の会社に対する法律関係を明確にし、株主の権利行使や会社から株主に対する各種の通知や配当の支払等を容易にするためと、株主が投下した資本を回収するために株式を譲渡することを容易にするためです。

 株式会社では、原則として株主の個性が重視されませんから、その地位の譲渡は自由に認めても不都合はありません。また、株式会社には出資を払い戻す制度がありませんので、株主にとっては、株式の譲渡が株式を取得するのに要した資金を回収する唯一の手段です。それで、株式の譲渡は自由であるのが原則となっています。しかし、株式会社制度の健全化の観点から、株主の投下資本の回収を不当に害さない範囲で、株式の譲渡が制限されてきました。

 株式会社は設立後、資金調達が必要になった場合に、新たに株式を発行することができます。これを新株発行(募集株式の発行)といいます。その他に、株式会社が多額の資金を調達する手段としては、社債発行があります。社債とは、広く一般の人々に資金を融資するように求め、その債務について有価証券を発行するもののことです。

 株式と社債は法律上の性質が違いますが、社会的・経済的に両者の機能は近く、また法制度上も両者の中間形態が認められています。例えば、社債的な性格を有する株式として議決権制限株式などが存在しますし、一方、株式的性格を加えた社債として、新株予約権付社債(新株予約権が付与された社債で予約権を行使することにより社債が株式に変わるもの)が存在します。

2012/04/15

株式会社の機関

 会社は法人ですから、自ら意思を持って行為をすることはできません。そこで、一定の自然人または会議体のする意思決定や一定の自然人のする行為を会社の意思や行為とすることが必要になります。このような自然人または会議体を会社の「機関」と呼びます。

 会社法は、機関設計について、規模の大小と公開性の有無を基準として考えています。規模の大きい「大会社」とは、資本金5億円以上または負債の総額が200億円以上の株式会社をいいます(貸借対照表上の数字で決めます)。「公開会社」というと通常は上場会社等を言うことが多いのですが、会社法では、定款に株式譲渡制限の定めがある株式会社であるかどうかを基準としています。すべての種類の株式について譲渡制限がある株式会社以外の株式会社を公開会社としています。よって、すべての種類の株式について譲渡制限がない会社はもちろん、一部の種類の株式についてだけ譲渡制限がある会社も公開会社となります。小規模な同族会社等は、会社にとって好ましからざる株主となる可能性のある部外者の株主を嫌いますが、会社の定款に株式の譲渡制限の旨を記載すれば、会社にとって好ましくない株主を排除することができます。わが国の株式会社のほとんどは株式の譲渡制限の規定を設けた会社です。

株式会社の機関設計

 会社法が定める株式会社の機関設計は、非常に多様化しました。まず、どのような機関があるか見て行きます。
①取締役…会社の経営者です。会社に利益をもたらすことが使命ですが、損害を与えることもありうるという意味で潜在的な悪者となりえます。
②取締役会…取締役全員により構成された合議体のこと。取締役会設置会社は、取締役会において代表取締役を選定しなければなりません。それ以外の取締役には代表権はありません。
③監査役…取締役の職務の執行を監査します。会計監査の権限だけでなく職務執行の当不当についても監査権限があります。
④監査役会…三人以上の監査役から構成される取締役会の監督機関と言えます。
⑤会計参与…取締役と共同して、計算書類等を作成します。取締役、監査役と同様、会社役員です。
⑥会計監査人…会計参与を会計のプロとすれば、会計監査人はプロ中のプロで、その資格は公認会計士(監査法人)に限られます。大企業が採用する監査機関です。
⑦三委員会…従来の日本型経営ではなくアメリカ型の組織形態です。三委員会とは、指名委員会、報酬委員会、監査委員会です。取締役会の持つ業務監督機能を強化し、監督と執行の分離が徹底され、業務執行は取締役ではなく執行役という別の役員を選任して担当させます。大規模な会社を念頭に設計されました。

 そして、機関設計に関する基本的なルールは次のとおりです。このルールに基づいて機関設計をしていくと、39種類の類型の会社ができます。
①すべての株式会社は株主総会と取締役が必要
②公開会社は取締役会が必要
③取締役会を置いた場合は、監査役(監査役会を含む)または三委員会と執行役のいずれかが必要
④取締役会を置かない場合は、監査役会や三委員会・執行役を置くことはできない
⑤大会社では会計監査人が必要
⑥会計監査人を置くためには、監査役(監査役会を含む)または三委員会と執行役のいずれかが必要
(岩波新書、神田秀樹著『会社法入門』を参照しました)

2012/03/15

経営者は「任意代理人」か「信任受託者」か

 個人企業でも共同企業でも、オーナーは他の人に経営活動を任せることができます。オーナーと任せられた経営者は、「任意代理」という関係になります。オーナーは、経営者との間で結ぶ「委任契約」で「任意代理人」として経営者に経営を委任し、代理権を付与するわけです。

 これに対し、株式会社に経営者がいるのは、会社法という法律が、会社は経営者を持たなければならないと定めているからです。個人企業や共同企業では経営者がいなくても法的には問題ありませんが、株式会社ではそういうわけにはいきません。株式会社とその経営者との関係も「委任」とされており、民法の委任に関する規定によって、取締役、監査役の行為は規律されることになる(会社法330条)と考えるのが一般的です。

 しかし、別の考え方もあります。「法人としての会社が結ぶ契約はすべて経営者を通してしか結べないので、このような委任契約は、実質的には経営者が自分自身と結ぶ『自己契約』となり、自己契約は無効である(民法108条)。会社の経営者の仕事は、医師、弁護士、財団理事等と同じく、専門性の大きいもので、たとえば無意識の状態で運ばれてきた患者に対して、患者の生命を、信頼によって任されている医師が、患者と契約を結べなくても手術するのと同じように、株式会社の経営者とは、会社の信任を受けた『信任受託者』である。この信任関係の維持には、自己利益の追求を前提とした契約関係とは全く異質の「倫理」という原理を導入せざるをえない」(岩井克人著、平凡社刊『会社はこれからどうなるのか』を参照)と主張する学者もいます。

コーポレート・ガバナンス

 会社と経営者の関係が「委任」であれ「信任」であれ、経営者は会社のために忠実に職務を行わなければならないとする「忠実義務」(会社法355条)と、それぞれの立場に応じて通常の注意を要求する「注意義務」(民法644条)を義務付けられています。最近、会社が合理的で適正な企業経営をするためにはどのような経営システムが必要かという議論の中から、「コーポレート・ガバナンス(企業統治)」ということばが出てきましたが、この「忠実義務」と「注意義務」こそがコーポレート・ガバナンスの中核に位置していると言えるでしょう。

 コーポレート・ガバナンスの目的は、経営者の不祥事を防止して株主の利益を守るような経営を実現することですが、そのためには、会社の利潤追求のプロセスが、公正さと透明性をそなえるようにしなければなりません。

 そのために、株主代表訴訟(株主が会社の利益のために会社を代表して信任義務に違反した経営者を裁判所に訴える)という制度や、取締役会(会社の業務を決定し、代表取締役を選定しその職務の執行を監督する)や監査役(経営者の仕事が法令や定款に違反しているかどうか、あるいはひどく不当であるかどうかを監査する)という機関が設けられています。

 平成17年の大改正(平成18年5月1日より施行)によって新設された会社法では、機関設計が柔軟化されましたが、これによって、それぞれの企業でそれぞれのやり方を採ることにより、コーポレート・ガバナンスの要求に応えやすくなったと考えられます。

 「コーポレート」ということばは、上場企業等の大企業を念頭において用いられます。「ガバナンス」の方は、企業を取り巻くさまざまな関係者(ステークホルダー)のその企業との関わり方という意味で用いられます。アメリカでは、経営者に対する監視(「モニタリング」)という意味で、ヨーロッパでは経営者が外に対してどのように説明責任(「アカウンタビリティ」)を負うのかというように定義することが多いようです。(岩波新書、神田秀樹著『会社法入門』を参照しました)

2012/02/15

所有の関係から見た株式会社の基本構造

 店主がひとりで経営する駅前のラーメン屋は通常、個人企業です。近所の街角で夫婦が一緒に八百屋を経営していれば、それは通常、共同企業です。会社法の改正によって、株主や取締役がひとりでも株式会社を名乗れるというようになりましたから、上記の個人企業も共同企業も、株式会社として経営することは可能です。しかし、株式会社を設立するには、定款の認証費用や設立登記のための登録免許税等の費用がかかり、運営していくにも法人住民税がかかるので、会社とせずに個人企業として経営している方が一般的です。

 このような企業は「ヒト」と「モノ」との間の単純な所有関係の上に成り立っています。ラーメン店主や八百屋の夫婦という「ヒト」が、ラーメンの麺や具または、店の中の野菜や果物という「モノ」を所有しています。店主が自分の店でラーメンを作って食べようが、夫婦が店に並べてある果物を食べようが、会計上は自家消費として記録に残しておいた方が良いということはあっても、法律上は何も問題は発生しません。

 一方、株式会社として組織されているスーパーマーケット・チェーンも物理的な視点から眺めてみれば、一方には株主という「ヒト」がおり、他方には会社資産という「モノ」があるという点では、個人企業や共同企業と異なるところはありません。しかし、「会社資産」の所有者は「株主」ではなく「会社」です。そして「株主」が所有しているのも「会社資産」ではなく「会社」です。「ヒト」である「株主」と「モノ」である「会社資産」との関係は、法人としての「会社」を中間項とした間接的なものに過ぎません。ですから、自分が株主であるスーパーマーケットのお店の前を通りかかったその株主が、スーパーマーケットの中に陳列してある果物を食べてお金を払わずに立ち去ると、警官が呼ばれて事件となって法律問題が発生します。「株主」は「会社」(具体的には「会社」としての財産的価値を細かい単位に分割した単位である「株式」)を所有していたとしても、陳列してある商品等の「会社資産」を所有しているわけではないからです。

法人の存在理由

 「株主」と「会社資産」の中間に位置する「会社」は、「株主」により所有される客体としては「モノ」ですが、「会社資産」を所有する主体としては「ヒト」です。「ヒト」という場合、「人間」も「ヒト」であり飲食や排せつ等の生理的機能を有し、社会的には権利義務等の主体ともなりますが、「法人」という「ヒト」は「人間」のような生理的機能は有しないものの、社会の中で権利義務の主体としてふるまいますので、「会社資産」を所有する主体となりうるわけです。

 もしもこの「法人」という制度がなければ、株主の数がどんなに多くなっても、夫婦が共同で所有する八百屋と同じように、複数の株主による共同企業となります。すると、共同所有者の誰かが病気や老齢で手を引いたり、あるいは死亡すると、原則的にはそれまでの契約は無効になり、新たに契約書を書き直さなければならなくなります。それは共同企業にも、外部の契約相手にも多大な費用と労力がかかる事態です。このような事態を避け、共同企業が外部の個人や企業と結ぶ契約関係を簡素化するために導入されたのが「法人」であるわけです。

 「法人」とは、個人と個人との間の契約によって作られた単なる「私的」な存在ではなく、社会的に承認されるようにと国家が法律によって制度化したものです。そういう意味では「会社は社会の公器」と言われるように、「公共的」な存在と言えます。

(岩井克人著、平凡社刊『会社はこれからどうなるのか』を参照しました)