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2012/01/15

 財務諸表は、会社が自分で作成するものです。会社がうその内容を財務諸表に記載すると、会社に対する信頼性が薄れ、出資する人がいなくなってしまいます。それで、会社とは独立した第三者的立場の公認会計士が、その財務諸表をチェックして、その内容が会計のルール通りに記載されていることを保証します。このことを「会計監査」と言います。日本全国には多くの会社がありますが、そのすべての会社について会計士が財務諸表のチェックを行うことは不可能です。それで、法律で、ある程度の規模以上の会社については、会計士が財務諸表の監査をするきまりになっています。大きな会社が財務諸表でうその情報を報告すると、社会的な影響が大きいからです。

売上債権回転期間と棚卸資産回転期間

 会計士はポイントを絞って調べます。
 ひとつは、「売上債権の資産性」です。「売上債権」とは、会社の営業取引から生じた債権のことで、勘定科目では「受取手形」と「売掛金」のことです。具体的には、存在しない売掛金が計上していないかとか、本当にその金額が将来入金されるのか、というようなところを見ます。

 通常は、3期分の貸借対照表と損益計算書から、3期分の「売上債権回転期間」を計算します。売上債権回転期間とは、年間の売上高を12で割った1カ月当たりの売上高で、売掛金と受取手形の合計額を割って算定した数値のことです。売上債権が何カ月分の売上高に相当しているかを見るもので、回転期間が長ければ長期にわたって売掛金が回収されずに滞留していることを示します。3期分を調べるのは、3期分を比較して何か異常がないかどうかを調べるためです。異常と感じられる時期があるときは、「売掛金の年齢表」(売掛金の残高について、得意先ごと、売掛金の発生時期ごとに、発生後何カ月経過しているかを表す資料)をもとに、危ない取引先を特定します。売上債権を相手先ごとに調べて、表示されている金額通り将来ちゃんと回収されるかどうかを判断します。その結果、回収されない金額だけ減額してしまいます。債権回収ができないことを貸倒れと言いますが、たとえ貸倒れが確定していなくても、将来貸し倒れる可能性が高いと思った場合には、会社の実態を表すために、その事実を財務諸表に反映させなくてはなりません。

 もうひとつのポイントは、「棚卸資産の回転期間」です。製品や商品のうち販売した金額は「売上原価」という費用の科目として損益計算書に表示され、販売されずに期末に残っている金額は「棚卸資産」として貸借対照表に表示されます。実際以上に利益を大きく見せたいときには、商品が売れれば、その分だけ「棚卸資産」という「資産」から「売上原価」という「費用」に転換しなければならないのに、それをしないで在庫の水増しをするという手法が使われます。それで、売上債権の回転期間と同じように、「棚卸資産の回転期間」(1カ月当たりの売上高で、棚卸資産の合計額を割って算定した数値)を求め、同業他社や過去の推移と比較したりして異常がないかを見ます。

減価償却と減損会計

 「減価償却」とは、有形固定資産の原価を、将来の収益に対応させて、各会計年度に配分していく計算手続のことで、その費用のことを「減価償却費」と言います。一方、「減損会計」とは資産として計上されている固定資産の金額を減少させる処理のことを言います。固定資産を全く使わなくなった(遊休資産)場合や、固定資産の市場価格が著しく下落した場合などに、将来もたらす収益が減少したと判断して、損益計算書に「特別損失」として表示しなければなりません。

 利益を大きく見せようとするときには、この減価償却費を計上しなかったり、減損会計が行われていなかったりしますので、調査が必要です。

2011/12/15

税効果会計(会社の実態を反映するしくみ)

 税効果会計とは、「税務上の法人税等(法人税と住民税と事業税のこと)」を「会計上、計上すべき法人税等」に調整するための会計手法です。

 「税務上の法人税等」である納税予定額は、「益金」と「損金」の差額である「課税所得」に税率を掛けて計算されます。それに対して、「会計上、計上すべき法人税等」である税金費用は、会社の実態を表した「収益」と「費用」の差額である「利益」に税率を掛けて計算されます。「益金・損金」と「収益・費用」は、計上される範囲とタイミングが異なっています。例えば、会計上、問題がある売掛金に対して貸倒引当金を費用として計上することがあります。会社の実態を正しく表すためです。しかし、税金計算上は、貸倒引当金繰入額を、会計上の費用と同じタイミングで計上できないことがあります。税務上は、会社の実態ということとは全く関係なく税法とか国の政策的なことで計上のタイミングが決定されるからです。

 例えば、法人税等の税率を40%と仮定して、会計上は「収益500」と「貸倒引当金繰入額100」を費用として計上したものの、税務上は「貸倒引当金繰入額100」は今期はまだ「損金」として認められずに、「益金500」「損金0」とします。すると会計上は「収益500ー費用100」で「利益400」となるので、財務諸表に計上すべき税金費用は「利益400×税率40%」で「税金費用160」となります。それに対して税務上は、「益金500ー損金0」で「課税所得500」となるので、納税すべき法人税等は「課税所得500×税率40%」で「納税予定額200」となります。このように、「益金・損金」と「収益・費用」とに差異があると、「税務上の法人税等」と「会計上、計上すべき法人税等」とにかい離が生じます。

 税効果会計が導入される前は、「税引前当期純利益400」から、納税予定額である「法人税等160」を差し引いて「当期純利益240」というように表示されていましたが、税効果会計が導入されてからは、「税引前当期純利益400」から「法人税等160」を差し引き、「法人税等のマイナス40」を計上して「当期純利益280」と表示するようになりました。この「法人税等のマイナス」は、損益計算上は「法人税等調整額」という「費用」の科目で表すことになります。

 税効果会計制度導入前は「損金」にならない「費用」は、費用計上しなくても納める法人税等は変わらないうえ、計上しない方が最終的な利益は多くなるので、計上したがらない会社経営者がいましたが、「税務」と「会計」をきちんと線引きするこのような「税効果会計」を導入することで、会計が会社の実態を表しやすくなりました。

国際会計基準(IFRS)

 会計の世界では、会計のルールを世界共通のものに変えるという流れがあります。会計基準をめぐり、アメリカとEUとの間で覇権争いがありましたが、両者が接近し、EUが打ち出したIFRSを日本も結果的には全面適用する方向に舵を切りました。会計ルールを国際共通のものとすることで、企業の財務戦略も国際化され、日本経済にも大きな影響を与える可能性があります。投資家も各国の会社の成績を比較検討し、安心して投資できるようになります。

 このIFRSで財務諸表が変わります。貸借対照表は「財務状態計算書」と、損益計算書は「包括利益計算書」と呼ばれることになります。「財務状態計算書」はさほどではありませんが、「包括利益計算書」は従前の損益計算書と比べ、大きな相違があります。最終的な利益の概念が従来の「純利益」から「包括利益」に変わりました。「包括利益」とは「資産・負債を時価評価した差額(の増減)」を、「純利益」に加えたものです。「時価評価」という概念を強く入れることで、より将来の情報を表すものにしました。

2011/11/15

 DCF法(Discount Cash Flow Method)は、将来の異なる時点のキャッシュフローの金額を、現在という単一時点での価値(現在価値)へ割り引くことによって、投資機会(設備投資)を評価する方法です。つまり、投資物件の生み出すキャッシュフローの期待値を必要収益率である資本コストで割り引いた現在価値がその投資物件の価値である、という考え方であり、この考え方を応用して、企業を評価するための企業価値を求めることもできます。いずれも、「フリーキャッシュフロー(FCF)」という概念を用います。

「フリーキャッシュフロー」とは

 キャッシュフローのフリーは自由に使えるという意味です。企業の設備投資は本来、営業活動によるキャッシュフローの範囲内におさめるべきであるところから、フリーキャッシュフローは資本投資家に対して分配可能な(自由に使える)キャッシュフローと言い換えることもできます。

 このフリーキャッシュフローには二つの定義があります。
A…「営業キャッシュフロー」ー「投資キャッシュフロー」
B…「営業キャッシュフロー」ー「現事業維持のために必要なキャッシュフロー」

 「投資キャッシュフロー」には、①現事業維持のために必要なキャッシュフロー②未来投資③三か月を超える財務的な投資(定期預金や社債、長期での株式購入など)の三種類が含まれます。

 未来投資や財務的投資は自由に使えるお金、つまりフリーキャッシュフローから行われるべきものであり、それらをも差し引いた残りがフリーキャッシュフローだとみなすAの考え方だと、フリーキャッシュフローは企業の稼ぐ力を表す真の企業の実力値であるにもかかわらず、それを過小評価していることにもなりかねません。しかし、企業外部の人からは「現事業維持のために必要なキャッシュフロー」の額が分かりにくいことと、大多数の企業は未来投資額や三カ月を超える財務的投資の額がそれほど大きくないため、フリキャッシュフローとしてはAが一般的に用いられます。専門家はBを用いることが多いようです。

投資機会の評価法

 DCF法の考え方を用いて、投資機会を評価する具体的な計算方法に正味現在価値法(NPV法))があります。これは、設備投資によって①将来得られるキャッシュフローをすべて現在価値に割り引き②その現在価値を合計し③その合計額から初期投資額を差し引いた値(正味現在価値)がプラスであるとき、その投資代替案を採用するという投資評価基準です。複数の投資代替案があるときは、値がプラスで最も大きな正味現在価値の投資案が採択されます。正味現在価値法は、キャッシュフローの現在価値を考慮している点で優れており、現時点では最も利用価値の高い投資評価基準のひとつと言えます。

企業価値の算定

 DCF法による企業価値の算定には、
A…企業価値を(株式価値+負債価値)として求める方法
B…企業価値を直接求める方法
の二つの方法があります。

 Aの株式価値は、配当金を株主資本の資本コストで除したものとして求めることができ、負債価値は負債利子額を負債利子率で除したものとして求めることができます。

 企業価値を直接求める方法は、企業がその事業から生み出すキャッシュフローの期待値(フリーキャッシュフロー)を事業の必要収益率で割り引くことで企業価値を求めるものです。

2011/10/15

設備投資型産業と流通業

 企業が事業活動をすれば経費の発生は避けられませんが、経費は固定費と変動費とに分けることができます。固定費とは、売上の増減に関係なく発生する費用です。このかなりの部分を占めるのが「減価償却費」です。減価償却費とは設備の投資など投資時に必要とする資金(いったん「資産」とされている)を、その使用期間に分けて「費用化」していくものです。それに対して変動費とは、売上高に応じて増減する費用です。

 鉄鋼業や電鉄、通信事業を行う企業は多額の設備投資を必要としており、減価償却費等の固定費が多くかかりますが、このような企業は概して変動費率(売上高に占める変動費の割合)が低く、ある一定の売上高を超えるとすごく儲かります。一方、卸売業や伝統的な商社などは、それほど多くの設備投資を必要としませんが、仕入などの変動費が多くかかるため、利鞘も限られています。

損益分岐点分析

 企業のあげる売上高のうち、「売上高と費用が一致する売上高」を損益分岐点売上高と言います。損益分岐点の位置は、「損益分岐点売上高÷実際の売上高」で計算されます。例えば、損益分岐点売上高が80で実際の売上高が100ならば、損益分岐点の位置は80%といいます。これは損益分岐点比率とも呼ばれます。そして「100%から損益分岐点比率を引いたもの」を安全率とか安全余裕率と呼びます。安全率とは「売上がどのくらい減ると赤字になるか」を示しています。

全部原価計算と直接原価計算

 財務会計上、一般に公開されている損益計算書では「売上高」から「売上原価」「販売費及び一般管理費」「営業外損益」「特別損益」などを順に控除していき、最後に「当期純利益」を算出します。この損益計算書を作るやり方のベースになっているのが「全部原価計算」という考え方です。この全部原価計算には大きな欠点があります。

 全部原価計算の損益計算書では、「売上原価」は「製造原価」の中で「売れたもの」だけが売上原価になり、売れ残りは「棚卸資産」つまり在庫として貸借対照表の資産として計上されます。つまり、在庫分のコストは損益計算書には行かずに資産として貸借対照表に保留されるのです。このような計算方法だと、生産量が多くなればなるほど製品1個当たりの固定費が減少して、製品単価も減少するので、大量に作れば作るほど1個当たりの製造原価は下がり、損益計算上の利益は表面的に増えることになります。これでは、短期的に自分の製造部門の業績を上げたい工場長や、会社の利益をかさ上げしたい経営者は、この仕組みを悪用することにもなりかねません。

 この全部原価計算書の欠点を克服するのが「直接原価計算」という考え方です。外部に開示することを目的とした財務会計上の概念ではなく、企業内部でそのパーフォーマンスを把握するために開発された管理会計上の概念です。直接原価計算では、売上高から変動費を引いた額(「限界利益」)から固定費を全額引きます。そして最終的な利益を計算します。このようなやり方をすれば、固定費が資産に計上されませんので、操業度の変化にかかわらず損益が正確に把握できます。

 直接原価計算にはこのような大きなメリットがありますが、社外に開示することを目的とした財務会計では全部原価計算が用いられています。その理由は、財務会計には売上高の計上と費用の計上をできるだけ一致させようとする基本的な考え方があるからです。ですから、モノを製造しても仕入れを行っても、それを一旦すべて「棚卸資産(在庫)」に計上し、それらが売れた時点で費用化するという考え方が、全部原価計算の基本的な考え方なのです。

2011/09/15

企業の安全性

 ある会社の財務諸表を見て、その会社の実力を見抜く場合には、優先順位があります。①安全性②収益性③成長性の順番です。最優先すべきは、短期的に倒産する懸念がないかどうかを見抜くことです。そのためには「流動比率」(流動資産÷流動負債)という指標を使います。流動負債(1年以内に返済義務のある負債)の返済が不能となると即座に倒産の可能性が高まりますので、流動負債をまかなうだけの流動資産があれば(流動比率が100%以上)、まず当面は大丈夫と考えます。ただし、この一般論は、商品を売ってから資金を回収するまでの期間(サイト)と、在庫などを買ってから支払を行うまでの期間が近い卸売業や製造業では当てはまりますが、販売後の資金回収が遅いなどの現金化が遅い会社では、流動比率が120%でも資金繰りがたいへんな会社もあります。

 企業の安全性をより厳格に見ようとするときは「当座比率」(当座資産÷流動負債)を用います。当座資産とは、流動資産の中から棚卸資産のようにすぐには現金化しにくい資産を差し引いたものであり、現預金、有価証券、売掛金及び受取手形から貸倒引当金(倒産等で回収が不能になる可能性が高いものの金額)を引いたものです。当座比率は一般的には90%以上あれば短期的な安全性には問題ないと言われています。

 しかし、貸借対照表などの計算書は、決算から最低でも2ヶ月くらいたってから公表されますので、会社の倒産を左右する当面の資金繰りを考える上では古い情報となることも多くあります。その場合は、手元流動性((現預金+すぐに売れる資産+すぐに借りることのできる与信枠)÷月商)で判断します。手元流動性は月末などで、中堅企業で1.5カ月、中小企業で1.7カ月くらい持っていると安全です。

キャッシュフロー計算書

 企業は発展するのに必要なキャッシュフロー(現金や預金のこと)が得られなくなると、事業が発展できなくなります。さらに現事業を維持するだけのキャッシュフローさえ得られなくなると倒産ということにもなりかねません。

 キャッシュフロー計算書は、2000年3月期から始まった「連結決算制度」の変更時に導入された財務諸表のひとつです。それまでは、貸借対照表、損益計算書の2つが主な財務諸表でしたが、キャッシュフロー計算書の登場で「財務三表」の時代になりました。

 キャッシュフロー計算書は、「営業キャッシュフロー」「投資キャッシュフロー」「財務キャッシュフロー」の3つのセクションに分かれています。
「営業キャッシュフロー」は、企業が通常の営業活動でどれだけのキャッシュフローを得たか、あるいは失ったかを表しています。キャッシュフロー計算書で見ると、「税金等調整前当期純利益」から「資金の支出を伴わない費用」や「営業循環上の資金の動き」を調整して計算します。「資金の支出を伴わない費用」とは減価償却費や資産の評価損のことであり、いずれも費用として計上されますが実際にはお金は出ていかないものです。「営業循環上の資金の動き」とは、売掛金や買掛金、在庫などです。いずれも損益計算書ではとらえることのできない資金の動きです。

 「投資キャッシュフロー」は、企業が投資にどれだけのお金を使ったか、その投資からどれだけのお金を回収したかを表しています。普通は、減価償却費分ぐらいは再投資を行わないと企業は現事業の維持すらおぼつきません。「財務キャッシュフロー」は、財務活動でのキャッシュフローの動きを表します。具体的には、①借入、社債、増資などでの資金調達や資金償還②配当や自社株式買入などの株主還元を表しています。

2011/08/15

資金調達

 企業の資金調達の源泉は、企業外部からの資金調達(外部金融)と企業内部からの資金調達(内部金融)に分けることができます。外部金融は、直接金融(株式や社債等の有価証券を発行することにより資本市場から直接資金を調達すること)、間接金融(金融機関等から資金を調達すること)、企業間信用(支払手形や買掛金を発生させることによる資金調達)に分類できます。内部金融は自己金融ともいい、事業活動によって自ら生み出した利益を内部留保することによる調達と、減価償却があります。外部金融のうちの株式発行と内部金融を合わせて自己資本と言い、株式発行以外の直接金融と、間接金融、及び企業間信用を合わせて他人資本と言います。自己資本とは純資産であり、他人資本とは負債のことです。

負債と純資産の調達コスト

 資金調達には当然のことながら、調達コストがかかります。負債の調達コストは「金利」です。負債には借入金や社債等の有利子負債と、買掛金など金利のかからない無利子負債がありますが、有利子負債の金利が調達コストです。無利子負債を含めた負債全体での調達コストは一~二%程度の企業が多いと思われます。

 純資産の調達コストは「配当」と考えてもよいのですが、現在のファイナンス理論では「株式の期待収益率」と考えられています。この値は、CAPMという資本資産価格評価モデルと市場リスクの尺度であるβ(ベータ)係数を用いて算出されます。負債の調達コストよりも、この純資産の調達コストの方がずっと高い値です。

 負債と純資産という複数の資金調達源泉がある場合、調達源泉別のコストの総額が資金調達の総額に占める割合(加重平均資本コスト(WACC))が、その会社の資金調達コスト(資本コスト)となります。

調達コストと利益率の関係

 企業はコストをかけて資金を調達して事業を行うので、その資本コスト以上の利益率を出さなければ意味がありません。WACCは資産をまかなうための資金の調達コストであり、資産を使って得られるべき利益もそれに応じて高くなければなりません。資産を使った利益率は、ROA(総資本営業利益率=営業利益÷総資本)です。このROAがWACCより高くなければなりません。

 WACCと比較する際の利益率としてROE(自己資本利益率=当期純利益÷自己資本)を用いるという考え方もありますが、経営者の経営姿勢という観点からは、ROAの方が良いように思われます。資産をまかなうために負債と純資産で資金調達しているわけですから、経営者はその負債と純資産の双方に対して責任があり、それに見合ったリターンを出す必要があります。それがROAです。ROEと比較するというのは、自己資本つまり純資産にだけ見合ったリターンを出していればよいということであり、負債を提供する社債権者や銀行に失礼な考え方だとも言えます。 

 なお、ROAでは他社比較をする場合、「利益」は「営業利益」でも「経常利益」でも「純利益」でもかまいませんが、ROEに関しては必ず「純利益」です。ROAを計上するときの「利益」を「純利益」とすれば、ROEはROAに(資産÷純資産)、つまり自己資本比率の逆数を乗じた値になります。自己資本比率が高ければ企業の中長期的な安定性に貢献するのですが、ROEが低くなり株価が低迷しがちで買収のターゲットになりやすくなります。ROEを高めようとすれば、負債を増やすなどして自己資本比率を小さくすればよいのですが、負債のこの「てこ」のような役割に注目して、自己資本比率の逆数である(資産÷純資産)を「財務レバレッジ」と言います。

2011/07/15

財務会計(制度会計)と管理会計(経営会計)

 財務諸表の重要なものとして、貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書があります。貸借対照表は、ある一時点において、その会社にどのくらいの財産や借金があるかという「会社の財政状態」を示し、損益計算書はある期間においてその会社がどのくらい儲かったかという「会社の経営成績」を表します。「会計」とは、会社が活動した結果の財政状態や経営成績をありのままに投影する技術と言えます。財務諸表を作成する目的には、経営者に対して経営のかじ取りに必要な情報を提供すること(管理会計目的)と、企業を取り巻く利害関係者(株主、投資家、債権者、国家等)に対して企業に関する意思決定に必要な情報を提供すること(財務会計目的)があります。

3種類の勘定科目

 貸借対照表には、財政状態を表す「資産」「負債」「純資産」の3種類の勘定科目だけが、経営成績を表す損益計算書には「収益」「費用」の二種類の勘定科目だけが載っています。貸借対照表では、表の左側(全体に「資産」の勘定科目を並べます)の金額合計と右側(上部分に「負債」に関する勘定科目、下部分に「純資産」に関する勘定科目を並べます)の金額合計は必ず一致します。損益計算書の「収益」と「費用」の差額が「利益」となり、同時に「純資産」の一部になります。

 「資産」とは現在保有しているプラスの財産のことですが、「将来会社にお金の流入をもたらすもの」とも言え、将来お金に変身しないものは、会計的には資産として認められないことにもなります。資産の勘定科目は大きく「流動資産」「固定資産」「繰延資産」の3種類に分けられています。すぐにお金になる資産が「流動資産」で、お金になるまで長時間を要する資産が「固定資産」です。「繰延資産」は、将来お金の獲得に貢献するだろうという過去の支出金額のことです。

 「負債」は一言でいうと「資産」の反対でマイナスの財産であり、「将来会社からお金を流出させるもの」です。このうちすぐにお金が出て行く負債が「流動負債」、お金が出て行くまで長時間を要する負債を「固定負債」と言います。

 「純資産」は「資産マイナス負債」として表されますが、会社の所有者である株主に帰属するものと言えます。「純資産」には2つの性質があり、「株主が払い込んだお金」という性質と「会社が事業活動で増やしたお金のうち残っているもの」という性質です。前者が「資本金」、後者が「利益」のことです。「収益」と「費用」の差額である「利益」は「純資産」の勘定科目でもあるわけです。「負債」と「純資産」と「収益」はお金の調達源泉であり、「資産」と「費用」はお金の運用形態であると言えます。

費用収益対応の原則

 「会社の経営成績」を表す損益計算書は、一定の期間ごとに作成しますので、「収益」や「費用」の計上のタイミングが重要です。「収益」は、商品を引き渡して、かつ、現金かそれに見合う債権が発生したときに損益計算書に計上します(「実現主義」)。一方、「費用」は犠牲となりうる取引が発生したときに計上します。例えば、「収益」を獲得するための犠牲である広告宣伝をする場合、後日お金を支払うことになっていても、広告宣伝を行ったときに損益計算書に「費用」として計上されます(「発生主義」。犠牲として支出したお金のうち、当期の収益に貢献した分は「費用」になりますが、来期以降の収益に貢献する分は当期では「資産」となり、来期になって初めて「費用」として計上することになります。このように、「費用」を「発生主義」により把握し、対応する収益が計上される会計期間に計上することを「費用収益対応の原則」と言います。