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2011/06/15

 担保物権は、債務の履行の確保という点から見たとき、いろいろな手段があります。そのうち、どれを中心的な手段とするかによって、担保物権は種類が違ってきます。

 その第1は、目的物を取り上げて債務者に不便・苦痛というような心理的圧迫を加え、それによって弁済を促すという留置的作用です。この場合、目的物は債務者にとって主観的価値の大きいほど効果が大きいことになります。交換価値はなくても構いません。留置権と動産質権・不動産質権は、この作用に依存しています。第2に収益的作用があります。担保権の目的物が債務者だけが使用・収益しうるものではなく、債権者も用益することができるものである場合には、これを担保にとって債権者が自分で用益して、その収益を債権の元利の優先的弁済に充てていくのです。不動産質権がこれに該当します。第3の作用は、交換価値を利用するものです。もし債務者が弁済しない場合には、目的物を換価してその代価を優先弁済に充てる作用です。留置権を除いては、先取特権・質権・抵当権のいずれもこの作用を持っています。先取特権と抵当権は収益的な作用も留置的な作用もなく、原則として交換価値に依存しています。株券・社債・手形などの有価証券の質(権利質)も、交換価値を利用しています。

 また、約定担保(質権と抵当権において設定される担保)の目的物が次第に拡張されてきました。質権においては、動産、不動産、それ以外の財産的な権利(財産権)の3つすべてについて認められますが、抵当権の目的は不動産について認められるだけです。もっとも、権利のうちでも不動産物権、例えば地上権、永小作権などは、質権の目的とされるだけではなく、抵当権を設定することも認められているので、不動産の上のある種の権利は抵当権の目的となります。しかし、その範囲はわずかです。

抵当権の効力

 抵当権の効力として最も中心的なものは、抵当権によって、被担保債権について優先的な弁済を受けることです。担保物権を持っている者がその担保物権に基づいて競売をするのだから(担保競売といいます)、初めから競売の目的物は担保権の客体である動産、不動産その他の財産に特定されています。それに対して強制競売は債務名義を取得して、それに基づいて債務者の財産(動産・不動産、債権その他の財産、どれと特定されていない)を強制的に換価して、それから優先弁済を受ける手続きです。強制競売には、国家が認めた債権の目的を達成するために、債権者の請求によってではありますが、債務者の財産を取り上げて競売して買受人に与えるという強制手続という意思が強くあります。これに対し、担保競売は、担保物権者がその担保物権に基づいて換価するのに国家機関がお手伝いをするに過ぎないという趣旨が強くあります。

抵当権による物上代位

 担保物権は目的物の交換価値を把握する権利だから、目的物が滅失しても当然に消滅すべきものではありません。その点では、地上権や永小作権のような目的物を使用・収益する利益を把握している物権とは違います。それで、担保物権の目的物が収用されて収用補償金となり、または焼けて保険金に変わるのは、ある意味では交換価値の現実化であり、担保物権がこの上に効力を及ぼして本来の作用を発揮するのは当然です。民法が304条で物上代位という制度を定めているのは、担保物権者に特権を与えたのではなく、担保物権の性質に従った当然のことです。ただ、差し押さえることを要件としたのは、担保物権の目的物が一般財産の中に入って混ざってしまうと、特定することが困難になるからです。

2011/05/15

 留置権・先取特権・質権および抵当権は担保物権と総称されます。担保物権とは、債権の弁済を確実にすることを目的とする物権という意味です。この4つの担保物権のうちで、留置権と先取特権は、ある特殊の債権について法律上当然生ずるものなので、あたかも特殊の債権の効力が特に強くされているような働きをし、法定担保と呼ばれます。これに対し、質権と抵当権とは、当事者が契約をしてこの権利を設定し、特に債権の弁済を確実にすることに利用する権利で約定担保と呼ばれます。

 この4つの担保物権のほかに、判例法で明らかにされた特別の担保物権があります。それは譲渡担保と呼ばれるものであり、担保の目的のために、所有権その他の権利そのものを債権者に移転し、債務が弁済されたら、その権利をまた債務者のところに戻す、という法律構成をとっています。その他に仮登記担保とか所有権留保というような方式のものも行われています。

 保証や連帯も特定の債権の弁済を確実にする働きをします。ただそのやり方は、特定の財産から優先的に弁済を受けるのではなく、特定の財産を取り上げて心理的圧迫を加えるのでもなく、主たる債務者か、連帯債務者のうちで実際に金銭を借りて使用した者から取れない場合にも、保証人または名義を貸した他の連帯債務者からも弁済を受けることができるというものです。この保証人または連帯債務者から弁済を受けるときの目的物は、保証人または連帯債務者の全財産であって特定の財産ではありませんので、担保物権とはなりません。さらに、その保証人や連帯債務者に他の債権者があれば、平等の立場に立ちます。

留置権

 「他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる」(295条第1項前段)とあるように、留置権の成立要件は、留置権を取得する者が他人の物を占有しているということと、その者が債権を持っていることという2つです。ただその債権は「その物に関して生じた債権」でなければなりません。例えば、その物に有益な費用を投下してその物の価値を高めた(店に設備を据え付けた等)とか、必要費をかけてその物の価値を保存した(家屋の雨漏り修理等)という理由に基づいて、引渡しを請求する者に対して、費用償還請求権を持っているような場合です。留置権の効力の中心的なものは、留置権者がその物の引渡しを請求した者に対して、留置権のあることを主張して、その引渡しを拒絶することができることです。

 先取特権の303条や質権の342条、抵当権の369条の3つの規定においては、「その債務者の財産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する」と書いてあり、優先弁済権があることが示されています。よって、先取特権・質権・抵当権は、民事執行法によって競売をすることで優先弁済を受けることができます。しかし、留置権では295条で「その物を留置することができる」といっているだけで、優先弁済に関する記述はありません。

先取特権

 先取特権は、非常に多くの種類を含む広範な制度で、民法の条文もたいへんな数にのぼっています。債権者平等原則という民法の原則をねじ曲げるものであり、場合によっては早い者勝ちという物権編の大原則すら曲げてしまうものです。先取特権には一般の先取特権と特別の先取特権があります。さらに、特別の先取特権は動産に成立するものと不動産に成立するものがあります。一般の先取特権は債務者の財産であれば動産、不動産、債権などすべてに成立可能です。これに対し、動産や不動産の先取特権は特定の目的物のうえにだけ成立します。

2011/04/15

動産物権変動の対抗要件(物権総則)

 178条に「動産に関する物権の譲渡は、その動産の引渡しがなければ、第三者に対抗することができない」とあります。つまり「引渡し」が対抗要件であるということですが、それは占有権の譲渡を受けることに帰着します。占有権の譲渡には4つの態様(182~184条)がありますが、手から手に渡す「現実の引渡し」はともかく、少なくともそれ以外の占有権の譲渡(「簡易の引渡し」「占有改定」「指図による占有移転」)は、第三者にそのことを公示するという働きは少しもしていません。不動産物権変動の対抗要件としての登記は、公示の手段として申し分のないものですが、動産物権変動の対抗要件としての引渡しは、ほとんど価値のないものです。それを補うような意味で、第三者の保護は、192条以下の即時取得という制度でなされます。

 また、178条に「動産に関する物権の譲渡は」とありますが、動産に関する物権は不動産に関する物権と違って、その種類は多くありません。所有権のほかには占有権、・留置権・動産質権及び先取特権の四つしかありません。そして、この四つのどれにも178条は適用されません。つまり、「動産に関する所有権の譲渡」だけが対象となります。

占有権の効力としての即時取得

 192条「取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する」は、動産の取引の安全を保護するための特別の制度だと考えなければなりません。つまり、ある人が物を占有しているときには、その占有は、預かった物、質にとった物、借りている物、その他いろいろな、自分にそれを処分するだけの権限のない立場で占有している場合も少なくないのですが、外部から見るときには、どんな権限に基づいて占有しているのか分かりません。そこで、それを所有者だと誤信して取引をした者、すなわち買ったり質に取ったりした者がある場合には、本来なら所有権も質権も取得することができないはずだが、特にその取引を保護するために、これらの権利を取得させることにしよう、いわゆる動産取引における公信の原則に基づいた制度だと考えねばなりません。取引行為に基づかずに動産の占有を始めても、即時取得の適用はありません。

所有権の限界

 206条は「所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する」とあります。たとえば、建物の所有者はそれを自分で居住用に用いても、(使用)よいし、賃貸して家賃を得ても(収益)よいし、売却しても(処分)構いません。しかし、「法令の制限内において」という制限がつけられています。たとえば、都会地で建築をするには一定の耐火ないしは防火の施設を設ける義務が課され(建築基準法)、道路、鉄道等公共の施設の建設のためには、所有権が取り上げられる(公用収用)ことがあります。公用収用の場合は、憲法29条3項「私有財産は正当な補償の下に、これを公共のために用いることができる」により、正当な補償を与えなければなりません。防火施設を設けるなど建築基準法による制限の場合は、所有者自身のためにも必要不可欠のものであり、補償されるかどうかは公用収用ほど明確ではありません。

 また、207条に「土地の所有権は、法令の制限内においてその土地の上下に及ぶ」とありますので、上は宇宙の果てまで、下は地球の中心まで及ぶことになります。

2011/03/15

 民法の物権編は9つの権利を挙げています。第1のグループは用益物権と呼ばれるもので、所有権・地上権・永小作権および地役権であり、第2のグループは担保物権と呼ばれるもので、留置権・先取特権・質権・抵当権です。占有権(自己のためにする意思をもった物の所持という、事実支配状態そのものに認められる権利)は、このいずれにも属さないので、ひとつの特別のグループに属します。

 占有権は除いて、他の権利のうちで、所有権とその他の7つの権利との間には、いわば質的な差異があります。7つの権利は、目的物の利用価値の一部分だけをその内容とするのに対して、所有権は「何でもできる」という万能の内容を有する権利です。それで、この7つのものを制限された利用方法だけを内容とする物権ということで、所有権に対して制限物権と呼びます。

物権の変動を目的とする法律行為
 176条に「物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによってその効力を生ずる」とあります。設定とは他人の所有権の上に所有権以外の物権、すなわち制限物権を、当事者の意思によって創設することであり、移転とは、所有権その他の物権を当事者の意思によって、その帰属者から他の者に移すことを指します。それを当事者の「意思表示のみによって」効力を生ずるというのは、その他の要件を必要としない、という意味です。
ドイツ民法やスイス民法では、不動産所有権の移転や不動産の上の抵当権の設定は、これを目的とする意思表示だけでは効力を生ぜず、登記をしてはじめて効力を生じます。また、動産所有権移転は、目的物の引渡しをしてはじめて効力を生じます。それに反し、日本の民法では、登記や引き渡しは不要です。後で述べるように対抗要件(第三者に自己の権利を主張するための要件)に過ぎません。

不動産物権変動の対抗要件

 Aがその所有の土地をBに売ったが、まだAからBへの所有権移転登記をしない間に、Aが同じ土地をCに売って即日登記をしたときに、ABCの間の法律関係はどうなるでしょうか。「不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない」(177条)により、BがCに「Cが買う前に自分はA所有の土地の所有権を取得したのだから登記を抹消して自分に引き渡せ」と主張したとしても、CはBの主張をしりぞけることができます。BはただAに対して損害賠償の請求をする(売り主の責任を追及する)ことができるだけです。

 このことはCが悪意(A所有の土地はすでにBに売られたことを知っている)であったとしても、BはCに対して所有権の取得を対抗できません。「不動産の取引の安全を図る制度だと言うなら、Cが善意(A所有の土地はすでにBに売られたことを知らない)の場合だけを保護すれば十分であって、悪意の場合まで保護する必要はない」と言えそうですが、現実には善意か悪意かを簡単には割り切れず、Cが悪意のときはBは対抗できるとしてしまうと、不動産取引は際限のない紛争に巻き込まれるおそれがあります。それで、177条は「善意の第三者」とはせずに単に「第三者」としました。しかし、Bが登記を受ける気でその申請をしようとするのを妨害したり、Bからその登記手続きを委任されて引き受けながら、その信頼を裏切ったような場合(「背信的悪意者」といいます)までCを保護する必要はないとして、この場合はBは登記なくして物権変動をCに対抗できます。