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2010/06/15

商標権の機能
 
 商標は商品の製造・販売、役務(サービス)の提供等をする事業者が、自己の扱う商品・役務を他人の商品・役務と識別するために、商品・役務に使用する標識(標章)です。

 商標は商品・役務の識別機能を前提として、経済的機能として、商品・役務の出所を表示する機能(製造者・販売者等を表示)、商品・役務の品質を保証する機能(同一商品の商品・役務は同じ性能・品質であることを保証)、商品・役務を宣伝する機能(商標が商品・役務を顧客に印象付け、購入意欲をそそらせ、他にも伝播させる)を有すると言われます。

 商標の出願・登録は、「商品・役務の区分」(商標法施行例別表)の1類から45類までの類に区分された商品・役務を指定してなされます。
他人の出願前から不正競争の目的でなくある商標を使用しており、その者の商標として既に需要者間に広く知られているときは、その商標を継続して使用することができます(先使用権)。

商標の利用

 出願中及び登録後の商標権は、これを他人に譲渡することができます。また、商標使用(ライセンス)契約を結んで商標の使用権を他人に許諾・設定して使用料を得ることができます。

 商標では特許、実用新案、意匠と異なり、期限が来たら登録の更新ができます。これは、特許、実用新案、意匠では創作的活動の成果が保護されるので、その独占的使用が認められるのは一定期間内に限られ、登録の更新ということはありません。しかし、商標ではそれに化体された営業上の信用、顧客吸引力が保護されますので、長く使用して価値の出てきた商標を保護すべく更新制度があるのです。

 登録商標を、正当な理由なしに登録後継続して3年以上使用していないときは、第3者は特許庁に対して商標登録取消の審判を請求することができます。この不使用取消審判の請求があったときは、権利者の側で使用していることを立証しない限り取り消されます。

意匠権の機能と意匠の利用

 意匠は物品を離れては存在しません。すなわち同じ形状、模様、色彩またはこれらの総合であっても物品が異なれば別の意匠となります。例えて言えば、自動車とそのおもちゃにおいて、形状、模様、色彩が同じであっても物品が違うので別の意匠となります。意匠権は65の類に区分された各物品ごとに出願、登録されます。意匠は物品の部分についても成立します(部分意匠)。物品の部分とは、独立して取引の対象とならない、例えば、シャープペンシルのクリップ、冷蔵庫の取手などです。

 意匠権者は、登録意匠及びこれに類似する意匠を排他独占的に実施する権利を有します。意匠権の排他独占的実施権は登録意匠のみでなく、これに類似する意匠にも及ぶのです。意匠権者はまた、自ら実施するのみでなく、他人に実施を認め、通常実施権を許諾し、専用実施権を設定することもできます。部分意匠制度により、物品の特徴的な部分にしぼって登録しておくと、登録された特徴部分と同一または類似の形態のものであれば、他の部分が異なっていても他人によるその意匠の実施を排除することができます。

2010/05/15

 主として特許権について、侵害に対する攻撃と、侵害の主張に対する防御について述べ、他の知的財産権についても触れます。

侵害に対する攻撃

 特許権の侵害行為とは、権限なく第3者が特許発明を実施することです。特許権者は、自らの権利を侵害されたと考えたならば、その権利範囲を客観的に解釈し、相手の侵害の事実を正確に把握するようにします。そして、権利が侵害されていると判断されれば、次のような措置を取ることが検討されます。

①製造・販売・貸与・使用・輸出・輸入等の各差止請求
②損害賠償請求
 特許法では損害額について、侵害者が侵害物を譲渡したきは、譲渡数量に特許権者の販売物の単位数量当たり利益額を乗じた額、侵害者が侵害行為によって利益を受けているときはその利益額などと定めています。米国では、意図的な侵害などの場合に、認定された賠償額の3倍までの増額ができるとされています。
③不当利得返還請求
 損害賠償の請求と不当利得の請求は、同時に両方ともできますが、実際には、不当利得返還請求権の時効期間が10年なので、損害賠償請求が3年の時効にかかった場合に有用です。

知的財産法・関連法に基づく請求の特徴

 知的財産権の侵害行為は、①特許法、②実用新案法、③意匠法、④商標法、⑤著作権法、⑥不当競争防止法によって、刑事罰と民事上の差止や損害賠償請求ができます。⑦民法に基づいては、損害賠償の請求しかできません。したがって、例えば、営業上の表示関係で紛争が生じたというケースならば、できるだけ④商標権、③意匠権等で対処をし、それがダメなら⑤著作権で考え、さらにダメなら⑥不正競争防止法に元づいて相手方の行為を止められないかという風に考えます。もちろん、これらを組み合わせて使うことも可能です。いずれでもダメならやむを得ず⑦民法(不法行為)によるしかありません。

侵害の主張に対する防御・反撃

 特許権侵害の警告を受けた場合は、冷静に、特許庁の登録原簿、特許公報により相手の特許を調査します。また、出願から登録までの出願経過も調べます。相手主張の侵害理由が不明確であるときは、具体的な説明を求める回答をします。

 そして、先使用権の主張(他人の特許出願の際、その発明の実施である事業またはその準備をしている者は、実施または準備している発明及び事業の目的の範囲内で、通常実施権を有します)ができるかを検討し、必要なら特許庁に無効審判の請求(登録の要件を欠くにもかかわらず登録されているとき、特許庁に対し登録の無効を求めること)をし、包袋禁反言(ほうたいきんはんげん)の主張(権利者の出願過程での言動に反する主張は認めないとする論理)も検討します。当方が権利侵害をしているならば、相手特許を回避する方法を探したり、相手に実施料を支払って実施許可を受けるように交渉するなどの措置が考えられます。

2010/04/15

実施権

 特許権の効力として、特許権者は、業として特許発明を独占的に実施することができます(独占的実施権)。他人に実施を認めて(ライセンス)、実施料を取得することもできます。このライセンスには、次のように専用実施権の設定と通常実施権の許諾という二つの方式があります。なお、特許発明の実施とは、物の発明についていえば、その物の製造(生産)、販売(譲渡)、貸与、使用、輸出、輸入、販売の申出(カタログによる勧誘やパンフレットの配布等を含む)等です。

①専用実施権
 独占的な実施を認める権利で、設定登録をすることによって成立します(登録が効力要件)。物権的権利とされます。
②通常実施権
 特許権者と実施をする者との間の契約によって許諾される債権です。通常実施権の設定登録をしておくと、特許権が移転したり、後から専用実施権が設定されたりしても、特許権、専用実施権を取得した者に対し、通常実施権の効力を主張できます(登録は対抗要件)。また、通常実施権において、ある者に対してだけ、必要により地域、期間を限って、独占的に実施を許諾する場合の権利を独占的通常実施権といいます。

特許権とノウハウ

 ノウハウ(技術秘密)は「秘密の技術上の情報」として、不正競争防止法によって保護される営業秘密(広義のノウハウ)の一部となります。ノウハウの利用については、実定法の根拠が乏しいのですが、ともに技術内容を扱う性質上、特許との類推が有用なことが考えられます。
技術を開発した場合、これを特許出願して内容を公開して特許権を取得するか、あるいはノウハウとして秘密のままにして利用するかは判断を要する問題です。特許とすれば、排他的独占権が得られますが、他方、技術内容の開示により、これを基に競争企業によってさらに優秀な技術を開発され不利を招くおそれがあるからです。

 特許権は、制定法上の独占権として、特許庁に対する出願、審査、登録という手続きを経て権利化されます。したがって、権利を取得するまでに長期間(約2年6カ月)を要し、また、出願、登録された国においてしか効力を有しません。これに対し、ノウハウは、一定の秘密的事実状態を保護するに過ぎないので、そのような手続きを要せず、また秘密が保持されている間は世界各国において効力を有します。

研究委託契約と共同開発契約

 研究委託契約は、当事者の一方(委託者)が相手方(受託者)に対し新技術の研究を委託する契約であり、共同開発契約は、当事者双方が新技術の開発をし、さらに利用をしようとする契約です。最近では、研究開発をすべて自社内で行うことは技術的に困難であったり、投資効率的にも得策でないという判断がなされ、ある部分の研究を他社あるいは公的機関等に委託するという傾向が強くなってきています。これらの契約においては、特許権等の実施契約に比べ、①研究開発の分野の分担、②費用の分担、③権利の帰属、④研究・開発の成果の実施、⑤第三者への権利の譲渡・再実施許諾等、難しい事項を取り決める必要があります。

2010/03/15

発明の成立過程と特許

 発明とは「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」です。

 発明の成立過程のうち、技術的に最も重要なものは、着想の提案としての「原理を考えた着想」と着想の具体化としての「モデルの設定」です。飛行機の発明においては、前者は「推進力により空気抵抗によって物体に揚力を生じさせる」ことであり、後者は「物体に動力装置を設けてプロペラ等を回し翼の形状を工夫した機構」です。発明において、原理は必ずしも解明できていなくても、原理の代わりに、再現性のある現象を指摘することで足ります。

 特許を取得しうる者は、最初に発明した者であるとする先発明主義と最初に出願した者であるとする先願主義の二つの方式があります。先願主義の方が客観的に分かりやすく権利関係が安定していて良いと言われ、現在では米国以外の世界のすべての国は先願主義を取っています。

 コンピュータプログラムやビジネス方法・モデルは、自然法則を利用するものでないので発明とはならないのではないかということが問題となります。特許庁は平成14年の法改正により、特許法における「物」に「プログラム等」が含まれるとし、記録媒体に記録されないプログラム等の情報財が特許法における保護対象となりうることとなりました。また、平成11年12月にホームページ上で、「ある課題を解決するために、コンピュータのハードウエア資源を用いて処理を行うなどの要件を満たすものであれば、ビジネス関連発明であるか否かに関わらず、ソフトウエア関連発明として特許の対象になり得ます」としており、トヨタ自動車の「発注指示装置」(いわゆるカンバン方式)や三井住友銀行の「振込処理システム」などはビジネス方法特許となります。

特許の要件

①産業上の利用可能性(有用性)
 産業上利用できるものでなければなりません。ここで注意すべきは、医療は産業でないので、人間の病気の治療・診断・予防方法の発明は特許になりません。医療器具、医薬品であれば特許になります。
②新規性
 特許出願以前に一般に知られてしまっていてはならないということです。
③進歩性
 新規性は一応認められても、容易に考えつくような発明であってはならないということです。容易かどうかは、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、公知技術に基づいて容易に予測できたか否かによります。

その他の知的財産権の要件

 実用新案権の要件は、特許権と同様に、産業上の利用可能性、新規性、進歩性(特許権とは程度の差あり)があることです。意匠権の要件としては、工業上の利用可能性があること(量産可能という意味)、新規性があること、創作の容易なものでないことが必要です。商標権の要件としては、自他商品・役務の識別性があること、先願の登録商標と非類似であることなどが必要です。

2010/02/15

産業財産権と知的財産権

 一般に、商品が市場を支配する力(いわば商品力)は、技術、デザイン、ネーミング成り立つと言われます。良い技術、良いデザイン、良いネーミングという場合、特に技術、デザインについては、新しい技術(発明・考案)、新しいデザイン(意匠の創作)、ということが大きな意味を持ちます。そして、発明・考案に対する権利として特許権、実用新案権、創作された意匠に対する権利として意匠権、商品・サービスの表示(ネーミングもそのひとつ)に対応する権利として商標権が用意されています。これらの権利を総称して産業財産権といいます(平成14年に、従来の工業所有権から名称が変更されました)。つまり、商品力のある商品は産業財産権としての保護を受けられる商品が多いということになります。

 産業財産権制度、及びこれを含む知的財産権制度のアウトラインを見てみましょう。前記産業財産権に著作権、半導体集積回路の回路配置利用権、種苗法による育成者権、キャラクター(商品化権)等を含めて知的財産権といいます。

特許権と著作権の相違

 特許権は技術「思想」(アイデア)を保護するのに対し、著作権は文化的所産について創作された「表現」を保護するものです。文化的所産の「思想」は保護、独占させてはむしろ社会の進歩を阻害するので、これをさせないのです。特許権のように、技術を開示させ独占を認めるのを一定期間に限るならば、むしろ「発明の奨励となって産業の発達に寄与する」と考えられる場合は、思想の独占が認められるわけです。

 また、特許は産業上利用するものなので、最初に出願した者のみが権利者となり、権利者は客観的に定まります。これに対し、著作権は文化的所産の創作的表現について成立するので、模倣でなければ権利は複数成立しえます。例えば、同じ風景を複数人が撮影して類似の写真ができた場合、各人ごとに著作権が成立します。

知的財産権に密接に関連する権利

①不正競争防止法
 防止されるべき不正競争行為は、周知の商品・営業表示との混同行為、著名な商品・営業表示の無断使用、新商品(発売後3年以内)の形態の模倣、営業秘密に関する不正行為、品質等を誤認させる表示、他人の信用を害する虚偽事実の告知・流布などです。不正競争防止法に基づく権利は知的財産権には入りませんが、他人による不正競争行為の差し止めを求めることができる立場が、自分の知的財産権を守ると同様の機能を持ちます(不正競争禁止の効果)。したがって、実務的には知的財産権に密接に関連します。
②商号権
 商号は商人及び会社(営業主体)が営業上自己を表示する名称です。商号権は知的財産には入りませんが、平成3年の商標法改正により役務(サービス)の表示が商標のひとつとなったこととの比較からも、実質的に知的財産権と同様の効果を持ちます。つまりサービスの表示は商品の表示より営業主体の表示と一層近いと考えられるからです。