戦前の我が国では、長男が全財産を一人で相続する建前でしたから、相続争いも少なく、したがって、遺言する者はほとんどありませんでした。
しかし、戦後は共同相続となりましたので、遺言がないと、全相続人が必ず遺産分割協議をしなければならず、協議がまとまらなければ、裁判所で決めるという建前をとっています。
相続人間の争いは、この遺産分割協議のときに表面化してきます。
それで、自分の死後、遺産をめぐり親族間に起こるかもしれない醜い争いを未然に防ぐために、遺言書を作り、予め各相続人の間の遺産の取り分や分配の方法を具体的にはっきりと決めておくのがよいのです。
特に遺言が必要な場合
(1)夫婦の間に子供がいない場合
夫婦間に子供がなく、遺産の全てを長年連れ添った妻に相続させたいときは、遺言が必要です。
遺言がなければ、相続人が妻と兄弟姉妹の場合は、妻の相続分が3/4で、残りの1/4は兄弟姉妹が相続することになります。
(2)息子の妻に財産を贈りたい場合
息子の妻は、夫の両親の遺産については、全く相続権がありません。
例えば夫に先立たれた妻が、亡夫の親の面倒をどんなに長い間見ていたとしても、子供がないときは、亡夫の親の遺産は、全て亡父の兄弟姉妹が相続してしまいます。
このような場合には、遺言で、息子の妻のために然るべき遺産を残しておくのが思いやりというものです。
(3)先妻の子供と後妻がいる場合
先妻の子供と後妻との間では、夫の死亡とともに亡き母を思う先妻の子供と、後から家庭に入ってきた後妻との間に感情的な対立が始まり、遺産の分割に関連して紛争が大きくなるという例は、よくあることです。
このような場合にも、遺言で、どの財産は後妻に相続させ、どの財産は先妻の子供に相続させるかということをきちんと書き残しておけば、紛争を避けることができます。
(4)内縁の妻の場合
法律でいう「内縁の妻」とは、めかけとか単なる同棲者というのではなく、社会的には妻として認められておりながら、ただ婚姻届が出されていないだけの事実上の妻のことです。
このような内縁の妻には、夫の遺産についての相続権は全くありません。
したがって、内縁の夫は、事実上の妻のために遺言で、遺産を配分する配慮をしておくことが必要です。
(5)相続人が全くいない場合
相続人がいない場合は、特別な事情がない限り、遺産は国庫に帰属します。
そこで、遺産をお世話になった人にあげたいとか、お寺・教会・福祉関係の団体等に寄付したいという場合には、その旨を遺言しておく必要があります。
(NPO法人とやま成年後見人協会研修資料「遺言執行の実務」(山下正唯行政書士著)を転用した)
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