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2003/10/15

戦前の相続と戦後の相続

「相続は、死亡によって開始する」(民法882条)とあるように、戦後の民法では、相続ということは人が死ななければ起こりません。

中小企業の社長が息子に会社や財産を譲っても、それは財産を贈与しただけであって、相続させたわけではありません。

一方、戦前の民法では、人が死ななくても相続は起こっていました。

家督の相続ということで、長男が家の財産を全部引き受けて、一家の生活の面倒を見ていました。

遺産をめぐり「相続」が「争続」になることもあります。

戦前では財産は個人に属さず家に属していましたから、家長が死んでも家の財産は変わらず、家長の交代が起こっただけでした。

ですから、相続をめぐって家族の間でトラブルが起こることはあまりありませんでした。

しかし、終戦後憲法が変わりました。

新憲法が個人の私有財産を認める(第29条)とともに、法の下の平等原則(第14条)をうたい、権利や義務において、長男だから、次男だからという差はなくなりました。
遺族が相続する理由

法律が定める法定相続分を見ても、配偶者と子どもだけの場合、相続分の分け方は二分の一ずつです。昭和五五年(一九八〇年)以前は、配偶者は三分の一で、残り三分の二が子どもでしたが、昭和五六年一月から、現在の配分方法に変わりました。いずれの場合も、子どもが何人いても、頭割りした同じ額を相続することになりました。
ところで、ある人が死亡し、遺言が残されていないときに、その人と関係のある遺族がその遺産を相続することを、法が認めているのはなぜでしょうか。
一家の稼ぎ手が死亡すると、配偶者や子どもたちに死者の財産の承継が認められている第一の理由は生活保障のためです。
また、配偶者は経済的に裕福であっても財産を相続できますが、それは、たとえ夫(妻)名義の財産でも、それは夫婦が協力して得たものだから、夫婦の共有財産と見なすからです。生活保障と共有財産の清算のために、配偶者や子どもの相続が認められているのです。

遺言自由の原則と遺留分制度

遺言があるときはどうなるでしょうか。

日本では財産は個人の私的所有に属していますので、生前に自由に処分できるのと同じように、亡くなってからの財産の帰属も、本来は自由に決定できる(遺言自由の原則)はずです。

しかし、仮に夫に愛人がいて、すべての財産をその愛人に相続させる内容の遺言を書いた後亡くなったとすると、愛人がすべて相続できるのでしょうか。

これを認めてしまうと夫(父)に経済的に依存している妻(子)はたちまち生活に窮してしまいます。

それで、遺産の一部を一定の相続人のために留保する制度(遺留分制度)が設けられています。

遺言自由の原則もこの遺留分のために制限を受けるわけです。

(『相続と遺言の智恵』中村久瑠美著、講談社、を参考にした)

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