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2005/04/15

 「ふたりのため世界はあるの」という歌詞を含んだ歌がかつて流行した。ある宗教家は「歌詞が間違っている。『世界のためふたりがある』とすべきだ」と喝破したという。私も同感だ。

 マスメディアに登場する人の中には、生きる上での心構えを教えて下さる素晴らしい人が多い反面、「自分のために生きることがよいことだ」という考え方を、過度に強調する人が少なからずいることが気にかかる。

 私は、「国に何をしてもらえるかではなく、国に何をしてあげられるかを問いなさい」と語ったアメリカのケネディ元大統領のことばが好きだ。「全体に奉仕する中で個の幸福を求めていく」という、人が社会生活をしていく中で幸福になる原理を端的に表しているからだ。二宮金次郎などの偉人伝を読んでも、その原理を確認することができる。

 しかし、子ども達に川柳を作らせたら、「偉人伝、ご苦労様と読み終わり」という作品があったというが、偉大な人物の言行を自分とは無縁のものと思ってしまうのだろう。「自分のために生きることが良いこと」とささやき続けるマスコミの影響が大きいような気がしてならない。

 営業の仕事で実績を上げる人は、「この人(会社)のために自分は何ができるだろうか」と常に自問し続けている人である。一定の売上がないと仕事を続けていけないから、当然、毎月の売上を把握し、増加策を講じる。これは自分のためでもあるが、お客様のために一生懸命説明や提案をしていたら結果がついてきたという場合が多い。

 営業員にとって最大の敵は自分自身だ。「このように話すとどう思われるだろうか」と考えると、話すことが相手のためと分かっていても、言えなくなってしまう自分の弱さだ。

 実績を上げる営業員の関心は、自分がどう思われるかではない。「貴重な時間を割いてくださったお客様に、どのように役に立ち幸福になってもらえるかを、お客様の事情に即して一緒に考える」ことに向けられる。そういう営業員の質問は具体的だ。しかも、お客様が自分の勧める商品やサービスを用いて喜んでいる姿がイメージできるまで質問は止まない。すると、お客様も自分が本当は何をしたかったのかに気づいて、商品を買ってもらうだけでなく、感謝されることにもなる。「お客様の喜び」が大きな関心事であってこそ、それが可能なのである。

 人の喜びに大きな関心を寄せ、洗練された話法で実績を出す営業員に、小中高校の授業等で、その要諦を話してもらったらどうだろうか。引きこもりと呼ばれる人々の数が増えて大きな問題になっているが、相手を思う心や、コミュニケーションや提案のテクニックを話してもらえば、人のために生きる喜びと、それが自分のためになることを実感でき、社会に踏み出す知恵と勇気が得られるのではなかろうか。

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