Skip to main content.
*

2004/12/15

 私は、東京で研究プロジェクトの企画と事務の仕事に携わっていたとき、ある失敗をした。タイプライターを台に乗せて運搬中、急ぐあまり速度を出しすぎて、タイプライターを台ごとひっくり返してしまい、使えなくなってしまった。それを愛用していた人の顔は、当分の間見ることができなかった。それ以来、ものの運搬は慎重にするようになった。

 また、専門家の意見を電話でヒアリングしたとき、コミュニケーションが未熟だったので、相手を怒らせてしまった。プロジェクトに責任を持つ上司は、穴のあいた分野の意見をどうやって導いてくるのかと、厳しく追及してくる。代わりに意見を述べてくださる人のあてもなく、泣きたい心境になった。このことがあってからは、相手の気持ちを推し量りながらのコミュニケーションを心がけるようになった。

 仕事は勉強と違って、やり直しがきかないことが多い上に、現実の影響を伴うので、うまくいかないと責任問題が発生する。それだけに緊張を伴い、その分真剣に取り組めば人間的成長も早い。

 また、成功や失敗の忘れ得ぬ思い出を作ると共に、若手を指導する見識も身につけて、人生の充実を感じることができる。人の一生の中で仕事が占める部分は大きい。

 人生の中で家庭も大切だ。家庭の中核は夫婦関係と親子関係だ。配偶者は身も心も一つとなる特別な存在だ。夫(妻)であっても、あるときは父(母)のように、またあるときは息子(娘)のように、ダイナミックで立体的な情を感じられれば、倦怠期を迎えなくてもすむかもしれない。

 友人のO君夫妻は子どもが8歳と2歳の時に大きな決断をした。妻が海外ボランティアのために3年間南米のある国へ行きたいと言った。O君は数日間悩んだ末に、許したという。社会貢献する姿勢を子どもに示すことが子どもを育てる上で大切であると主張してきた手前、行くなと言えなかったというのだ。

 その結果、会社を辞めて家事と育児が中心の生活が始まった。生活費は、あいた時間に配達業務と訪問販売で稼いだ。持病の腰痛がひどくなればすべてが止まってしまうので、最初の一年間は一日も休むことなく朝のラジオ体操を真剣にしたという。そこが生命線だったからだ。子どもたちは、離れても心がつながっている両親の姿を見て、家庭と社会奉仕の大切さを理解したという。今、O君は、資格を取って新しい職場で活躍している。

 大臣も経験した国会議員の野田聖子氏(44歳)は、子どもを授かるべく奮闘中だ。「議員だから子どもをあきらめろ」と言われても、「人生は二者択一ではない」と負けない。

 「二兎を追う者は一兎も得ず」とは、同時刻にしようとする場合のことだと思う。細部まで描く想像力と、迅速で的確な段取り力があれば、仕事も家庭も両立できるのではなかろうか。

Comments

No comments yet

Add Comment

このアイテムは閲覧専用です。コメントの投稿、投票はできません。