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2004/06/15

 マスコミの情報で判断する限りでは、拉致被害者、地村保志さんの父、保さんは、行動力、謙虚さ、芯の強さを兼ね備えた素晴らしい人だ。儒教の教え「修身斉家治国平天下」を実践しておられるようにも見える。

 保志さんが行方不明になったショックで寝たきりになった妻の介護をしながら、数十万名もの署名を集めた。北朝鮮に対して「人間の顔をしたケダモノ」と激しく批判する一方で、「北朝鮮を憎んではいない。拉致を指示した金正日体制は憎いが、息子たちを見知らぬ土地で24年間生かして支えてくれた北朝鮮の人たちには感謝しないといけない」と語っているという。孫たちの帰国が実現する前の今年一月には、「帰国前の交渉で五人をいったん北朝鮮に戻すと約束したのであれば、日本政府は向こうのメンツを立てて北朝鮮に謝るべきだ」と懐の深さを示す。

 孫たちの帰国が実現するまで、25年間もの間、好きな酒を一切断っていたとも聞く。自分に厳しい精神の人だ。ある講演会の講師も、「地村の名前の地と村の間に「球」の字を入れれば全世界共生の理想を示す『地球村』になる」と笑わせながら賛美していた。

 ところで、先月の日朝首脳会談が1時間半と短かったことに関連して、中曽根元首相は「安否不明の10人について『一人一人の名と事例をあげ、もっと粘り、相手を教育すべきだった』」と語ったという(読売新聞夕刊、5.26)。中曽根元首相は、6月5日になくなった元米国大統領との間の信頼関係の基盤の上で、ソ連崩壊と冷戦終結に道をつけた首相だけに、そのことばは重い。同氏の言う「教育」とはどういう意味だろうか。

 わが子を教育するのもたいへんなのに、一国の指導者、しかも独裁的な権力を持った指導者を教育するには、どうしたらよいだろうか。

 私は、教育的効果をあげることができるとするならば、安否不明の人々が不明となった前後のようすや、そのことによる家族の心の葛藤を事前に詳細にヒアリングしておき、首脳会談では5時間かかろうと10時間かかろうと、家族がどんなにつらい思いをしたかを切々と訴える情報と心構えの準備が不可欠だと思う。

 しかし、家族の苦しみの話を持ち出せば、「日帝の朝鮮植民地支配による同胞の苦しみはそれ以上だ」との反論は当然予想される。過去の行為の謝罪と日本人の人権の主張をどのように按分したらよいのか。きわめて難しい外交交渉となるが、それに挑戦せずして活路は開かれないと思う。米などの物質援助の効果は、誇り高い民族にとって切り札とはならない。

 難しい交渉の矢面に立つ日本の首相にとって、地村保さんのような信念の人は、精神的・心理的に強力な味方になると思う。国会議員の中に、地村さんのように、完全解決まで酒を断つ人が日本全国で10人いたら、いや3人いたら、局面は好転する気がするのは、私の根拠なき妄想だろうか。

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