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2003/11/15

 小泉首相が、衆議院比例代表候補に、73歳定年制を例外なく適用するために、中曽根・宮沢両元首相に不出馬を勧告しに出向いたところ、宮沢元首相はあっさり了解したのに対し、中曽根元首相は「政治的テロだ」「非礼だ」として、激しく反発した。

 中曽根元首相は後日、「(首相のやり方に)情は感じなかった。首相から『こういう党にし、こういう政策にするから、ついては(引退を)』という話が来れば、こっちも人間だから情には感じる」と話した。小泉首相の出方次第では円満に引退した可能性があったということだ。

 私はこの話を聞いたときに、営業活動の重要なノウハウの一つである「SPIN法」を思い出した。例えば、コピーマシーンの営業マンが飛び込みで、ある事務所を訪問し、最初から「わが社のコピーマシーンの性能はこのように優れています」と説明し始めると、担当者から「売り込みに来たな」と警戒されてしまう。

 それに対して、「御社では○○メーカーのマシーンをお使いなんですね」(Situation:状況把握)、「何か問題はございませんか」(Problem:問題発見)、「○○ができれば仕事の効率が上がるんですね」(Implication:示唆)と話を進めていき、最後に「それでしたら、わが社のマシーンが御社の課題解決に的確にお答えできます」(Need-pay off:提案)と、S,P,I,Nの順に話をしていけば、成約率が向上し営業成績が上がるというのだ。
たとえ相手の提案を受け入れるつもりがあったとしても、自分の立場や思いを無視していきなり結果や要求だけを言われたのでは、素直に受け入れられず、まとまる話もまとまらなくなるのである。

 確かに結果だけを言えば時間も短くてすむし、一見効率的に見える。しかし、人間は情というものを持つ生き物であり、知情意の中でも情を中心として意思決定をすることが多い。であれば、相手の立場や情を尊重し、共感した基台の上で話を進めていく方が得策であり、結果的には近道でもある。

 そのためには、当事者を取り巻く状況を適切に説明する能力、対人感受性、共感する能力、相手を一人の人間として関心を持ち慈愛の心で接する能力、情の共有に至るまで提案を控える忍耐力などが必要だと思う。これは、コミュニケーションで必要な「人格的能力」の主要な部分ではなかろうか。

 「営業を長年すると人格が磨かれる」と言われるゆえんである。また、小泉首相にこの認識があれば、現首相が突然やってきて辞めろと言って元首相を怒らせるという、殺伐とした世相を象徴するような光景を見ることはなかったのではないかと思う。

 (同じ目的・事情・価値観を持つ人々が、報告したり意見を闘わしたりする時に、まず結論から述べることを否定するわけではありません。)

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