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2014/02/15

 法律にしろ社会の制度にしろ、原則を定め体系化して、それに基づいて合理的な社会運営をしようとする。しかし、思いもよらないことをする人が出てきたり、社会が大きく変化したり、もともと作った法律や制度が不備だったりして、現実を完全に整理することはできない。

 民法を初めて学習した時、わずか千条余りの条文で、社会の権利義務関係を整理していることに驚いた。「代理」「時効」「制限能力者」等の概念を設定して法律行為を見事に調整している。しかし、複雑な権利義務関係に網羅的に対応しているわけではない。

 例えば、人に対して何かを請求できる「債権」は、知り合いの人々の間でなされる「契約」によることが多いが、契約以外で債権が発生することもある。交通事故の被害者が加害者に損害賠償を請求できるのは「不法行為」により、また、強風で隣家の屋根がはがれそうになって危険な時に了承なく修理した後かかった費用を請求できるのは「事務管理」により債権が発生するからだ。同様に、正当な原因なく利益を得た故に他人に損失を与えた者がその返還の義務を負うのは「不当利得」により債権が発生するからである。しかし、この「不当利得」は、具体的な処理方法が民法に書かれておらず、裁判所の判例で問題を処理することが多く「民法のゴミ箱」と言われることもあるという。いわば、裏のルールで物事が進行していると言えよう。

 外国人の在留資格の制度にも奇妙なところがある。在留資格の多くは、外国料理の調理人は「技能」、通訳や翻訳をする人は「人文知識・国際業務」、日本人の配偶者としての活動をする人は「日本人の配偶者等」というように、活動内容や目的が分かるような名前を持っている。

 ところが「定住者」という在留資格は定住を目的とする人がもらえるというわけではない。日本人との血のつながりのある人に「定住者」の認定をする他に、日本人と結婚しその後離婚して日本人の実子を養護する立場にあるとか、日本人の実子がいなくても一定年数の日本人との結婚生活後離婚した場合には、「定住者」への変更が許可されることがある。

 このようなケースの判断基準は法務省発行の資料に見当たらず、当初から想定していたわけでもなかろう。現実の人間関係の中で様々なことが起き、人道上やその他の理由で日本に継続して在留することを求める外国人に、定住実績を一つの理由として許可しているに過ぎないものだ。この資格は、他の就労資格ではそれが規定する就労活動しかできないのに対し、様々な就労活動ができる点でとても魅力的な資格なのだが、何か民法の「不当利得」と同じような臭いを感じる。

法律も制度も、合理性がなければすぐにでも改められるだろう。しかし、合理性だけです べてを整理できるほど人間の活動の現実は単一的ではない。合理と現実のはざ間は、男女関係のすれ違いにも似て、とても人間臭くて興味深い

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