Skip to main content.
*

2012/03/15

経営者は「任意代理人」か「信任受託者」か

 個人企業でも共同企業でも、オーナーは他の人に経営活動を任せることができます。オーナーと任せられた経営者は、「任意代理」という関係になります。オーナーは、経営者との間で結ぶ「委任契約」で「任意代理人」として経営者に経営を委任し、代理権を付与するわけです。

 これに対し、株式会社に経営者がいるのは、会社法という法律が、会社は経営者を持たなければならないと定めているからです。個人企業や共同企業では経営者がいなくても法的には問題ありませんが、株式会社ではそういうわけにはいきません。株式会社とその経営者との関係も「委任」とされており、民法の委任に関する規定によって、取締役、監査役の行為は規律されることになる(会社法330条)と考えるのが一般的です。

 しかし、別の考え方もあります。「法人としての会社が結ぶ契約はすべて経営者を通してしか結べないので、このような委任契約は、実質的には経営者が自分自身と結ぶ『自己契約』となり、自己契約は無効である(民法108条)。会社の経営者の仕事は、医師、弁護士、財団理事等と同じく、専門性の大きいもので、たとえば無意識の状態で運ばれてきた患者に対して、患者の生命を、信頼によって任されている医師が、患者と契約を結べなくても手術するのと同じように、株式会社の経営者とは、会社の信任を受けた『信任受託者』である。この信任関係の維持には、自己利益の追求を前提とした契約関係とは全く異質の「倫理」という原理を導入せざるをえない」(岩井克人著、平凡社刊『会社はこれからどうなるのか』を参照)と主張する学者もいます。

コーポレート・ガバナンス

 会社と経営者の関係が「委任」であれ「信任」であれ、経営者は会社のために忠実に職務を行わなければならないとする「忠実義務」(会社法355条)と、それぞれの立場に応じて通常の注意を要求する「注意義務」(民法644条)を義務付けられています。最近、会社が合理的で適正な企業経営をするためにはどのような経営システムが必要かという議論の中から、「コーポレート・ガバナンス(企業統治)」ということばが出てきましたが、この「忠実義務」と「注意義務」こそがコーポレート・ガバナンスの中核に位置していると言えるでしょう。

 コーポレート・ガバナンスの目的は、経営者の不祥事を防止して株主の利益を守るような経営を実現することですが、そのためには、会社の利潤追求のプロセスが、公正さと透明性をそなえるようにしなければなりません。

 そのために、株主代表訴訟(株主が会社の利益のために会社を代表して信任義務に違反した経営者を裁判所に訴える)という制度や、取締役会(会社の業務を決定し、代表取締役を選定しその職務の執行を監督する)や監査役(経営者の仕事が法令や定款に違反しているかどうか、あるいはひどく不当であるかどうかを監査する)という機関が設けられています。

 平成17年の大改正(平成18年5月1日より施行)によって新設された会社法では、機関設計が柔軟化されましたが、これによって、それぞれの企業でそれぞれのやり方を採ることにより、コーポレート・ガバナンスの要求に応えやすくなったと考えられます。

 「コーポレート」ということばは、上場企業等の大企業を念頭において用いられます。「ガバナンス」の方は、企業を取り巻くさまざまな関係者(ステークホルダー)のその企業との関わり方という意味で用いられます。アメリカでは、経営者に対する監視(「モニタリング」)という意味で、ヨーロッパでは経営者が外に対してどのように説明責任(「アカウンタビリティ」)を負うのかというように定義することが多いようです。(岩波新書、神田秀樹著『会社法入門』を参照しました)

Comments

No comments yet

Add Comment

このアイテムは閲覧専用です。コメントの投稿、投票はできません。