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2012/01/15

 動産でも不動産でも、所有者が生きていれば完全な所有権を行使でき管理もできる。その人がなくなると、当然のことながら所有権を失い、管理もできなくなる。死者の財産は死亡と同時に法定相続人により分割未完了の共有状態となるが、とりわけ不動産は共有のままだと使い勝手が悪いので、相続人により分割協議がされ、単独所有とすることが多い。

 相続人同士の仲が良かったり相続財産が多ければ、熾烈な争いとなることは比較的少ないが、相続人同士の仲が悪く、しかも相続財産が少ないと各相続人の生活の事情なども絡んできて、熾烈な争いとなりやすい。相続人が争う姿を子供に見せてしまうと、自分の相続の時に、相続人である子どもたちにそれが引き継がれて、醜い争いの連鎖が起こりかねない。

 それを防ぐ方法は遺言書を書くことである。推定相続人である子供たちから「遺言書を書いてください」と言われたときに「俺に早く死んでほしいと思っているのか」などと言う人は、愛も想像力もない人と言わざるを得ない。遺言書を書くことは、相続による争いを未然に防止し、国力を減退させないための神聖な行為である。

 日本は戦後の民法改正まで家督相続制度により、長子が親の扶養義務や介護、家業の盛りたて等のすべてを引き継ぎ、家長となる長子の責任は重大だった。この制度によって旧家は温存され、長子以外の子は最初から親の財産をあてにすることなく自分の生活基盤を外に求め、活力ある日本を作ってきた。

 しかし、戦後のGHQの占領政策によって家督相続制度が廃止され、子どもたちが平等に相続する均分相続制度となり、相続争いの種が日本国中に播かれてしまった。この争いを事前に防ぎ国力を維持するために遺言書を書くことが有効であることを政府は宣伝すべきであるのに怠ってきた結果、家庭裁判所に持ち込まれる相続をめぐる争いは年々増えている。

 遺言書に書く内容は、単に財産の分配についてだけではない。遺言書の後段の「付言」で、前段で示したように財産を分配した理由を記載すれば、付言を読むことで、残された者全体を考えて分配したのだと理解し、自分に不利な点があっても受け入れるようになる。

 相続人による遺産分割協議の結果が遺言の内容と異なっていれば、一部を除いて協議の結果の方が優先する。また、遺留分を侵害した遺言だと侵害された相続人の反発を招きやすい。妻子がありながら、全額愛人に遺贈する旨の遺言がそのまま実行されると、妻子が路頭に迷うことも起こるので、相続の発生があったことを知ってから1年以内であれば、法定相続分の半分は取り戻すことができる。

 人は生まれれば必ず死ぬ。生きている間に持つこととなった財産を、死ぬ前に誰の所有にするかを明確にして、死後に争いが起こらないようにするのは、人としての義務であり、愛の表現でもある。

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