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2008/09/15

無効の行為の効力

 無効の行為には効力は発生しません。殺人契約や賭博契約のような公序良俗に反した契約を結んでも無効です(90条)。

 しかし、無効の行為が効力を持つに至る場合があります。無効の原因が当事者の私的事情によるとき、すなわち虚偽表示(94条)・錯誤(95条)・無権代理人の行為(113条)などです。そのような無効の行為でも、当事者がその行為の無効であることを知って追認したときは、新たな行為をしたものと見なされて(119条但書)効力を生ずることになります。

 無権代理人の行為について具体的に考えてみましょう。Bが代理権を持たないくせにAの代理人と称して、A所有の建物をCに売った、としましょう。Aについては代理行為としての効果を生じないから、所有権はCに移転しません。しかし、AがBの無権代理行為を追認すると、原則として、無権代理行為のされたときから代理行為として有効となり、したがって、そのときに所有権もCへ移転したことになりますが、この効果によって第三者の権利を害することはできない、と定められています(116条)。いいかえると、無権代理行為という無効な行為は、追認によって第三者の権利を害さない範囲で遡及効をもって有効となる、と定められています。

表意者のために取消権を付与

 心裡留保、錯誤、通謀虚偽表示のように意思表示の要素のうち意思が欠けていれば、通常、法律効果は無効です。一方、詐欺・強迫による意思表示の場合、あるいは制限行為能力者が単独でした意思表示の場合、たとえば売買契約であれば「何をいくらで」売るのかという契約の要素の部分には欠陥がありません。ですから意思表示が無効とは言えません。そこで民法は、詐欺・強迫による意思表示や制限行為能力者が単独でした意思表示を一応有効なものとし、表意者のために取消権を付与しました。そして、取り消すという意思表示がなされた行為は、「初めから無効であったもの」とみなされます。

 制限能力者が単独でした意思表示、詐欺・強迫による意思表示を追認できる者が追認した場合には、法律行為は有効に確定し以後取り消す余地はなくなります(122条)。追認権者は取消権者と同じで、本人、代理人、承継人(相続人のこと)等です。ただし、追認は取り消しの原因となっていた状況が消滅した後にしなければ、その効力を生じないと規定しています(124条1項)。未成年者が契約をした場合はその未成年者が成年に達してから、また詐欺・強迫による取り消しであれば、騙された状態や脅された状態を脱してからの追認でなければ効力がないのは当然のことです。また、「追認します」とはっきり伝えなくても、追認したとみなされても仕方がないような行為をすれば、追認とみなされます(法定追認)。

 取消権はいつまでも行使できるわけではなく、「追認できるときから5年」「行為のときから20年」のいずれかの期間が経過すると消滅時効によって取消権は行使できなくなります。一方、無効主張に時間制限はありません。

(我妻榮『民法案内2民法総則』勁草書房を参考にしました)

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