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2008/08/15

 キャベツの葉の上を動き回る蝶の幼虫は普段、2次元の平面世界の中で生きている。彼が3次元の立体世界を知る方法は2つある。1つは3次元世界で動くものの影が2次元世界に投影されたときに、察知能力があれば2次元世界以外の存在を察知することができる。もう1つは、幼虫自身が脱皮して蝶となって3次元世界に羽ばたくときである。未知の世界を知って新しい人生(蝶生)が始まる。

 世界中から注目されている理論物理学者リサ・ランドール女史(ハーバード大学教授)は、素粒子の共同研究をしていた時に、原子核を構成する素粒子の中にこの世界から姿を消すものがあるという矛盾にぶつかった。その解決のためわれわれの世界を取り囲む別の次元があると仮定し、その形を特定するための試行錯誤を繰り返した。その結果、その異次元世界はわれわれの3次元空間を取り巻く巨大な時空であることを理論上立証したという(『異次元は存在する』NHK出版)。

 われわれはとかく自分が生きている世界がすべてであって、その世界における常識で物事を判断してしまうことが多い。リサ女史の研究発表は、われわれは何に取り囲まれているかわからないし、われわれの世界の運行を規定する原理原則が何であるかが完全に分かっているわけではないことを想起させてくれる。蝶の幼虫のように、われわれ人間にも全く新しい驚きの世界が待っているかもしれない。

 このような観点からすると、従来の科学の思考の枠組みから、未知なるものを一刀両断に否定してしまうことは、新しい可能性の芽を摘んでしまうことにならないだろうか。

 読売新聞夕刊(平成18年10月2日)では、日本物理学会の発表会のようすを報告している。この発表会では、「言葉の意味が水に影響を与える」という説の発表に対し、それは「科学ではない」との批判が相次いだという。取材した記者は「科学ではない」との主張ばかり紙面に載せ、「ニセ科学」に警戒を呼び掛けているが、バランスを欠いていないだろうか。「言葉の意味が水に影響を与える」という話は、一部の学校教員が道徳の授業や生徒の言葉づかいの指導に用いているだけに、それを阻止する結果にもなりかねない。

 「生物でないただの水が、人間の言葉の意味に反応するというのは、即座に笑い飛ばす程度の話」だとする学者がいるようだが、この分野の研究において、将来コペルニクス的転回がおこり、「水が人間の言葉の意味に反応するのは当たり前」になる時代が来るかもしれない。

 いまだよく分からないこと、特に良心が受け入れたいと思いつつ証明ができていないことに対しては、その時点に達している科学の水準を絶対的なものとして決めつけるような判断をすることは控えたいと思うが、いかがだろうか。

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