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2008/03/15

 モチベーション理論の一つに、ハーズバーグの動機付け要因・衛生要因論というのがある。
「仕事の達成感、責任範囲の拡大、能力向上や自己成長等(動機付け要因)が仕事への満族の度合いを決め、労働環境、作業条件、給料等(衛生要因)が仕事への不満足の度合いを決める。そして、衛生要因を改善して不満足の度合いを少なくしたからといって、仕事への動機づけが高められ満足の度合いが高まるわけではない」という理論である。経営者は単に待遇改善だけで従業員をつなぎとめておくことはできないという、とても大切な示唆を与えてくれる。

 確かに、経営基盤が貧弱な零細企業の社長がわずかな会社の利益を減らしてまで従業員の賞与を捻出すれば、事情を知っている従業員は社長の心配りに感激し、それがやる気につながることはあると思う。しかし、それが長続きするとは限らない。従業員が、自分の将来設計における今の仕事の位置づけを考えたときに、必ずしも今の会社に居続けることが得策ではないと思えば、社長に感謝しつつも職場を去っていくことは十分ありうることだ。

 同じことが家庭における子育てについても言えるような気がする。親が子どものために快適な勉強部屋や栄養バランスのとれた食事を準備してあげたからといって、それだけで子どもが意欲を持って勉学や仕事に励み、自分の毎日の生活に満足感を持つことにはつながらない。勉学や仕事による達成感や成長を実感しているかどうかが重要である。

 不満足感の増減と満足感の増減とは一直線上にあるものではない。両者のうち満足感の増減の方がより重要だ。満足感が増加すれば不満足感があってもあまり気にならないが、満足感が低下しているとどれだけ不満足感の減少のために配慮をしてあげても、子どもはやる気を持ちにくい。
そもそも子どもがこの世に生まれたのは自分の意思によるのではない。親など他の存在の意思によってこの世に存在するようになったのである。しかも、安全や生理的な欲求だけではなく、愛情、尊敬、自己実現という欲望までも生まれながらに持たされている厄介な存在だ。そうであれば、子の存在の原因である親がそのことに一定の関心と責任を持つことは必要であろう。

 戦後の日本は貧しかったので安全と生理的な欲求を満たしてあげることだけでもたいへんだった。子どもはそのような親の事情を知っていたので懸命に生きる親の姿を通して、愛を感じ尊敬することができた。その中で自分も愛し尊敬され自己実現を図っていく道筋を自ら見出すことができた。

 しかし、日本は豊かになった。親は以前ほどの努力なくして安全と生理的な欲求を満たしてあげることができるようになった。そういう状況では、愛情、尊敬、自己実現に対する子どもの欲望はひとりでに満たされるものではなく、必要であれば何らかの対策を講じることが必要であることを、親自身が明確に認識する必要があるのではなかろうか。

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