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2007/05/15

 「私法の効力」という概念は、普通には私法の効力の範囲、すなわち①成文の私法法規が制定・公布されると、いつから生じた事項に適用されるか(時に関する私法の効力) ②私法はいかなる人に適用されるか(人に関する私法の効力) ③私法はどこの区域に適用されるか(場所に関する私法の効力)などを意味します。

時に関する私法の効力

 およそ法律は、その効力を生じた時から後に生じた事項についてだけその効力を有し(適用され)、その時以前に生じた事項については効力を持たない(適用されない)のが原則です。これを法律の不遡及の原則と言います。

 しかし不遡及の原則は法律解釈の際の原則であって、立法の際に一定の規定を、その規定が効力を生ずる以前に生じた事項についても適用されるものと定めることは差し支えありません。

 戦後の民法の親族編と相続編の全面的改正については、「新法は別段の規定のある場合を除いては、新法施行前に生じた事項にもこれを適用する。但し、旧法及び応急措置法によって生じた効力を妨げない」と定め、遡及効を持つことを原則としました。これはこの民法の改正は日本国憲法の大理想に従う重要なものであって、その適用を新法施行後に生じた事項に限ったのでは、はなはだ不徹底となるからです。(その場合でも但し書きにより無制限に遡及効を認めることはできません。)

 しかし、人はその時の法律を知り、それから生じる効果を予期して行動するので、後からその予期と異なる法律効果を生ずるものとすることは、法律に対する国民の信頼を裏切り、社会の混乱を生ずる恐れがあります。特に刑法では罪刑法定主義の理想を貫徹するために、遡及効を与えることが許されないことは憲法で規定されています。

人に関する私法の効力

 ある国の法律は、その国の人民主権の効果としてその国の国民に適用されると共に、その国の領土主権の効果として、その領土内にいる全ての人に適用されるのを原則とします。

 しかしこの原則も、実際には色々の修正を加えないと不都合を生じます。例えば、日本人が相当永く外国に滞在し、そこで土地を借りたり建物を建てたり、貯金をしたりして相続財産の中に外国にある財産が含まれるとなると、日本の家庭裁判所で日本の法律に基づいて、調停・審判・判決が成立したとしても、それに基づいて強制執行をすることはできません。なぜなら、強制執行は主権に基づく命令・強制の関係であって、日本の主権は外国では行使し得ないからです。

 結局、日本人と外国人とが当事者となる私法関係も、日本人同士が当事者であっても、その事件の発生が外国であったり、関係する財産が外国にあったりしたような場合には、日本人には日本の私法を、という原則を修正して、関係ある外国の私法を適用することが適当だ、という場合が多いことになります。わが国では、その関係を法例という法律が定めており、学問としては国際私法がこれを取り扱っています。

(我妻榮『民法案内1私法の道しるべ』勁草書房を参考にしました)

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