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This is the archive for January 2011

2011/01/15

 今日では、例えばクレジットカードを使えば、多額の現金を持ち歩くことなく、見知らぬ店舗でショッピングをしたり、初めて入るレストランで食事をすることができます。このようなサービスは個人情報の利用によって可能となっています。その反面、個人情報には危険性もあります。名簿を入手した悪徳企業が架空請求をしたり、本人も知らないうちに膨大な個人情報が収集・蓄積され予想外の目的に使用される事件が起きています。

 個人情報保護法は、高度情報通信社会における個人情報の利用がもたらす「有用性」の面に配慮しつつ、それに伴って起こる個人情報の不適正な取り扱いによって「個人の権利利益」が侵害されることを未然に防止するために、個人情報を取り扱う際に守るべき適正なルールを定めようとする法律です。

個人情報保護法の制定

 1980年に「プライバシー保護と個人データの国際流通についてのガイドラインに関するOECD(経済協力開発機構)理事会勧告」が採択され、ガイドラインにおける国内適用の基本原則である「OECD八原則」がうたわれました。

 日本における個人情報保護法制定の遠因としては、このOECDガイドラインの採択に見られる世界的な動きがありました。一方、直接の契機となったのは、政府が当時計画していた住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)の導入でした。住基ネットは、地方自治体が管理する住民基本台帳を電子データ化してネットで結ぶものです。ところが、1999年5月に京都府宇治市が管理する住民基本台帳のデータ約20万人分が不正漏えいして、名簿業者が販売していることが判明しました。その結果、民間部門を規制すべき個人情報保護法が未制定のままでは民間部門への電子データの流出に対応できないという点が懸念され、事件翌月の6月に当時の小渕恵三内閣が個人情報保護法の制定を打ち出しました。

 同年8月に住基ネット導入のための住民基本台帳法の改正法案が国会で成立し、その後住基ネットがスタートしました。個人情報保護法の一部(第1章から3章まで)は2003年12月10日の公布日に即日施行され、残りの部分は準備期間を置いて2005年4月1日に施行されました。

過剰反応と過剰保護

 個人情報保護法の施行後、個人情報の大量漏洩事件が頻発して、守られるべき個人情報が守られない半面、提供・公表されるべき個人情報が隠されるという、ちぐはぐな状況が発生しています。例えば、個人情報保護法全面施行直後に発生したJR福知山線脱線事故では、被害者の家族からの安否確認を搬送先の一部病院が拒否したため、大きな混乱が生じました。また、自社が製造する石油暖房機に一酸化炭素中毒事故を引き起こす不具合があることを発見したメーカーが、販売店に対し製品回収のために利用者情報の提供を呼びかけましたが、同法に抵触することを恐れて、情報提供を差し控えた販売店が多数ありました。このような過剰反応のほかに、一部の公的部門では行政機関個人情報保護法などに名を借りて、必要な情報公開を差し控えて情報隠しをする過剰保護と呼ばれる事態が発生しました。

 法秩序全体を見渡せば、個人情報保護法が保護しようとする権利利益以外にも多様な権利利益が存在しており、同法はその一つに過ぎません。個人情報保護だけが極度に優越した扱いを受けることにより、保護されるべき諸般の権利利益が損なわれないように、何らかの対応が求められます。