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This is the archive for June 2009

2009/06/15

 本来自分の財産は誰にどのようにあげても自由なはずです。しかし民法は、遺族の生活の安定や最低限度の相続人間の平等を実現するために、相続人(兄弟姉妹は除く)に最低限の相続の権利を保障しています。これが遺留分で、相続人からの生前贈与や遺言等によって他の人が過大な財産を取得したために、自分の取得分が遺留分よりも少なくなってしまった場合には、その人が贈与された財産等を取り戻すことができます(遺留分減殺請求権)。ところが、この遺留分が、中小企業の円滑な事業承継にとって大きな制約となっているのです。

遺留分の計算方法

 遺留分の総額は、①遺産に、②相続前1年以内になされた贈与と③「特別受益」(相続人への相続の前渡しの意味合い)の額を加え、そこから④負債を差し引いた額(これを遺留分算定の「基礎財産」といいます)に、遺留分の比率(原則は2分の1。直系尊属だけが相続人の場合は3分の1)を掛けて算出します。

 経営者から後継者に自社株式が生前贈与された場合、何年前になされたものであっても「特別受益」として遺留分算定の基礎財産に加えられますが、その基礎財産に加えられる金額は、贈与された時点ではなく、経営者の相続開始時点での評価によります。

遺留分の事前放棄

 現行の民法でも、遺留分を有する相続人は、被相続人の生前に自分の遺留分を放棄することができます。しかし、遺留分を放棄するためには、放棄しようとする後継者以外の相続人(非後継者)が自分で家庭裁判所に申し立てをして許可を受けなければならないため、放棄のメリットのない非後継者にとっては大きな負担となります。このため、遺留分の放棄について非後継者の了解を得るのは難しいのが実情です。

経営承継円滑化法の民法特例の活用

 このような自社株式などの承継に関する遺留分による制約の問題に対処し、現行の遺留分の事前放棄の制度の限界を補うため、平成20年5月9日に成立した経営承継円滑化法に基づき、遺留分に関する民法の特例ができました。この民法特例は平成21年3月1日から施行されています。

 この特例では、経営者から後継者に生前贈与された自社株式について、遺留分算定基礎財産から除外することができます(除外特例)。また、経営者から後継者に生前贈与された自社株式について基礎財産に参入する際の価額を固定することもできます(固定特例)。

 この特例は、いずれも後継者を含む現経営者の推定相続人全員の合意を前提とするもので、経済産業大臣の確認と家庭裁判所の許可が必要となっていますが、いずれの手続きも、メリットを享受する後継者が単独で行うことができます。このように、民法特例においては、現行の遺留分放棄に比べて、非後継者の手続き的な負担が大きく軽減されています。
(中小企業庁財務課発行「中小企業事業承継ハンドブック」参照)