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This is the archive for July 2008

2008/07/15

 法律行為といえども、社会の倫理規範と国の定める法規範と社会共同生活の中におのずから発生する慣習的規範によって規制されることは言うまでもありません。「法律行為」総則の90条(公序良俗)、91条(任意規定と異なる意思表示)、92条(任意規定と異なる慣習)の3条が、その任務を持っています。

意思の不存在―心裡留保・虚偽表示・錯誤

 心裡留保(93条)と虚偽表示(94条)は、内心の意思と表示行為から推測される意思とが違うことを表意者自身が知っており、これを保護する必要がない場合だから、問題は少ない。

 実際の例としては、代理人が本人の利益のためではなく自己の利益のために代理権を乱用し、相手方がこのことを知りまたは知りうべきときに、93条但し書きが類推適用される場合のほかは、心裡留保は少ない。

 これに対して虚偽表示は非常に多い。借金の多いAが、債権者Gから差し押さえられることを防ぐために、親戚のBに頼んで不動産をBに売ったことにして登記をBの名義に移す、という例はしばしば見られます。この場合、Bがその信頼を裏切ってCに売って登記をCに移転したらどうでしょうか。Aはなお自分の所有物であることを理由として移転登記の抹消を主張しうるでしょうか。Cが善意(AB間の売買は虚偽表示でBの所有にはなっていない、ということを知らない)であったのならば、AはCに対しては自分の所有物だと主張することができなくなる、言い換えればCの所有になる。これが九四条二項の働きです。真実の所有権を伴わない空虚な登記でも、真実の権利を伴うものと誤信して取引した者にとっては、あたかも真実の登記であったのと同じ効果を生ずるというのと同じことです。

 錯誤は、心裡留保や虚偽表示と違って、表示行為から推測される意思と表意者の真実の意思とが食い違っていることに表意者自身が気のつかない場合だから、表意者を保護する必要のあることは否定しえません。錯誤には、表示上の錯誤(誤記の類)、内容の錯誤(例えばポンドとドルは同じものだと誤解していたために10ポンドの代価のつもりで10ドルと書いた)、動機の錯誤(例えば高速自動車道の敷地になるから時価が上がると誤解して実は予定地になっていない土地を高価に買う)の三種類があると説かれます。

 錯誤の表意者の保護をどの程度までするかは、主として相手方の立場から考えるべきだと言えます。95条(錯誤)後段では、「表意者に重大な過失があったときは自らその無効を主張することができない」とあります。

瑕疵ある意思表示―詐欺・強迫

 詐欺または強迫による意思表示の要件として、一番に重要なことはその違法性の問題です。生存競争の世の中では「おどかしたりすかしたり」ということは、ある程度やむを得ない、いや必要なことでもあります。だからいやしくも、だました、おどしたという場合を、ことごとく詐欺・強迫による意思表示だとは言えません。そこには限界があります。その限界をどう引くか、それが最も重要な問題です。

(我妻榮『民法案内2民法総則』勁草書房を参考にしました)