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2004/04/15

 D・カーネギーの名著『人を動かす』の中に、なじみのホテルから講習会に使う部屋の使用料を3倍にすると要請された時に、それがそのホテルにとってどういう利益・不利益があるかを紙に書いて示すことにより、3倍でなく1.5倍に変更することができたという話が紹介されている。 

 利益としては3倍の使用料が払えず講習会をキャンセルにすることで、ダンスパーティなど、より高い使用料を取れるところに貸し出しができること、不利益としては、講習会収入が入らなくなることと、講習会を行えば参加するはずの、大勢の知識人や文化人が来なくなるのでホテルの宣伝の機会が失われることを示し、説得に成功したという。

 あることがらの長所・短所の比較や、ある行為を実行に移すことによる利益・不利益を考えることは、古今東西なされてきたことであり、今さら説明するまでもないことであろう。

 ただ、長所・短所なり、利益・不利益を紙に書いて、それをもとにして皆で議論したり、繰り返し考えたりということが行われてきたかというと、必ずしもそうではないような気がする。

 「ゆとり教育」と「学力の充実の教育」の間をさまよう日本の公教育の現状を見て、その感を強くする。

 確かに、学校へ行く日数や授業時間数を減らせば、生徒は自分の好きなことにより多くの時間を割けるようになるし、土日が休みになれば家族そろって旅行に出かけられ、家庭円満をもたらす等の利益があるだろう。反面、学力低下や、父母が家庭に不在の時など生徒が長時間テレビゲームに興じるなどの不利益も当然予想できたのではなかろうか。

 知識の詰め込みが生徒の心の荒廃と暴力等の問題行動を助長するという認識がゆとり教育を進めたと聞くが、最近は、読み書き計算等の基礎学力が身についていないと、子どもの心の荒廃と問題行動を助長することも指摘されている。

 ゆとり教育を導入するにあたり、文部省(当時の)はもちろんその是非を議論したであろうが、先述の「十字の整理術」(筆者の命名による)のような対照表に書き込んで、それをもとに十分な議論をし、主張や知見の裏付け調査等を行っていれば、これほど方針が揺れることはなかったのではないかと思う。

 イラク等の危険地帯へ自分の責任において行くことは、誰も禁止することはできないが、事前に情報を収集し、想像力を働かせて、十字の対照表に書き込んで整理してみると、後悔しない意思決定がしやすくなるのではなかろうか(この場合は、利益・不利益よりも機会・脅威で整理した方が適切かもしれない)。



2004/01/15


必死に仕事に打ち込んできた人が、定年退職を迎えて何をしたらよいか分からず、途方に暮れしまうことがあると聞く。しかし、若い時に自分の価値観が明確で、一度きりの人生の有限な時間をどう使うかがはっきりしていれば、仕事も人生の一部として位置づけができて、退職後も充実した日々を送れると思う。そこで、参考になる整理術を紹介したい。

 自分がすること、読む本、会う人等何でも良いが、図のような3×3のマス目の中に入れ込んでいくのである。九つのマスは右にいくほど重要度が大きく、上にいくほど緊急度が大きい。重要度も緊急度も大きい「A」に書き込んだことが最優先で選択されることとなり、重要度も緊急度も小さい「I」に書き込んだことが、最も後回しにすれば良いことになる。

 緊急度は、人との約束、所属する組織からの要請など、期限の決められたものが大きくなりやすいのに対して、重要度は資格を取るとか、好きなことに没頭する等、人生の自己実現により貢献するものが大きくなりやすい。図で言えば、「D」には雑用が入りやすく、「F」には自己に投資するものが入りやすいことになる。

 退職して途方に暮れるというのは、緊急度の大きいこと(A,B,D)に反応して行動する対応型人生であった可能性が高い。世の中にはそれと反対に人の目や世間体を気にせず(人の迷惑も顧みないこともあるが)、自分が重要と思うこと(A,C,F)をやり続けるマイウェイ型人生を営んでいる人もいる。

 私の尊敬する同僚のK先輩は極めて優秀な人なのに、同じ寮に住んでいた後輩から頼まれる雑用を優先してやってあげて、それを済ませてから自分の論文発表の準備に取りかかっていた。一見、「B」や「D」に入ると思われる事を優先していた。その頃は、それが不思議だったが、後日、K先輩にとっては後輩の世話をする事の方が、自分の論文発表より重要な事なのだと分かった。
K先輩にとっては、他人が「D」に入ると思うことでも、「A」に入ることだったのだ。緊急度は客観的に決まることが多いのに対して、重要度は内発的で主観的に決められるものなのである。

 3×3の図表は、適宜更新していけば仕事や家事で抜けてしまう事を予防できるし、優先順位が明確になるので行動計画が立てやすくなる。長年続けて書いて保存しておけば、自分が何を重要と考えてきたかという、自分の価値観の変遷を知る事もできる。

 是非、お試し下さい