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This is the archive for May 2017

2017/05/15

 仕事柄、日本で単身で、あるいは夫婦で在留する外国人の方が、母国にいる子供を呼び寄せるための在留資格制度上の手続きをすることがよくある。

 母国で高校まで卒業しその後本人の意思で来日を決めた場合と異なり、親の意思や都合で呼ぶ場合は、母国でどの程度母語を習得しているかに配慮する必要がある。来日後、日本語で授業が行われる通常の学校に通うことが多いが、親の日本語能力が低い場合、学校で日本語で学んだことや、同級生と日本語で会話したことに関する疑問点や感じたことを親に理解してもらえずストレスがたまったり、感受性や理解能力の形成に支障をきたすこともあるようだ。周囲は日本語を話す人が多く自分の母語が少数派だと、自分の母語や母語を話す両親を大切に思う気持ちが阻害されることもある。

 脳の専門家は、母国語を子供の母語にしようとするなら、3歳までは他の言語と混ぜずにしっかり母語を伝えた方がよく、8歳の誕生日(言語脳の臨界期)までには母語の能力を仕上げておくことが大切だと言う(黒川伊保子著『日本語はなぜ美しいのか』集英社新書)。

 親の都合で来日した外国籍の子どもは、日本人の同級生となじみ生活上の日本語を修得するのに通常は1~2年かかる。しかし、生活上の日本語を話しているからといって、日本人の子どもと同じように日本語で学習できるようになったわけではない。通常は、学習言語能力の獲得には5~7年(~10年)年かかるとされている。

 言語少数派の子どもの言語能力は、場面依存度(ものを指す、目を使う、うなずく、ジェスチャーなどをどれだけ利用できるか)が低く、認知力必要度(要求される認知的負担の程度)が高い場面でも高めなければならず、学校の授業の前に母語による先行学習を準備する教育ボランティの方々たちの負担はとても大きい。

 私を含めほとんどの日本人は、日本語を話す両親に育てられ、日本語が通じる学校で学習する。日本国内のあたりまえの風景だが、子どもの言語能力をはじめとした多くの能力を高め、アイデンティティを形成するための母語能力の獲得という面からみると、極めて質の高い優れた環境であることが分かる。

 明治18年に初代文部大臣に就任した森有礼氏は、英語を国語にすることを提案したようだ。現在も、子どもの能力を高めるべく日本語よりも英語により多く触れさせようとする若い親が多いと聞くが、子どもの脳機能形成と豊かな人生を守るという観点から考えれば、これほど愚かなことはない。

 国際化社会に対応するための英語の早教育が叫ばれているが、12歳以降にしたほうが賢明なようだ。12歳までの子どもの脳はとても忙しく、外国語学習を余儀なくさせられると、脳の人間形成において必要なやるべき仕事の一部を放棄するしかないのだという。