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This is the archive for October 2011

2011/10/15

 卒業論文を書いていた大学生の時、指導教官から「太田君、論文の目次ができたら半分できたようなものだよ」と言われたことを覚えている。目次は研究活動の枠組みを示しており、起承転結というパターンで論文を書くにしても、「これまでの研究の調査と問題点」「取り上げる事項とその理由」「実験方法とデータの評価方法」「残された問題」等がおおまかにでもイメージできなければ目次は作れない。指導教官にしてみれば、学生が持ってくる目次を見れば、どこまで分かっているかが分かるわけだ。

 法律を起草する人には透徹した枠組みの構想力が求められる。日本の民法は、国民生活全体を規律する一般法だが、わずか1000条あまりの条文で、さまざまなことが起こる国民の権利義務関係全般の枠組みを提示している。その構想力に敬服する。

 団体の活動をより積極的に行うためにワークショップを行って意見出しを行うことがある。「○○のために何をしたらよいか」というテーマで行う際、まず当初は、参加メンバー同士の話し合いを通して①そもそも自分たちは何を目的として活動しているのだろうか②個別のテーマの活動をしようとするならメンバーの誰に相談したり一緒に活動すればうまくいくのだろうか、ということが分かればOKだ。そのために、目的に対する思いを述べ合って相互理解を深めたり、個別テーマに対し同じ関心を持つ者同士が集まり活動の企画や設計を行う。このようなワークショップは講演会とは異なり、主催者は何度も準備のミーティングを行うのが通例だ。その過程で、ワークショップについてだけではなくその団体の活動の枠組みに対する認識も深まり構想が練られていく。

 限りある自分の人生をいかに行くべきかを考えるときにも、豊かな構想力があれば充実したものとなりやすい。人生には職業を中心とした使命分野と、家族を舞台とした愛の分野があるが、それぞれ何を基盤として枠組みを構想したらよいだろうか。

 職業は、心ひかれたり使命感を持てるものを選ぶことが肝要と思う。愛の分野は真理を知り体得することが大切だ。仏教では「十如是」(「相・性・体・力・作・因・縁・果・報・本末究竟等」)という出来事の正しい解明のための枠組みが示されていたり(石原慎太郎著『法華経を生きる』幻冬舎文庫)、キリスト教を基にした思想では、神相(普遍相・個別相)と神性(心情・ロゴス・創造性)という枠組みで、神の子たる人間を規定したりする。どのような宗教や教えであれ、人生の早いうちに何らかの真理に出会えば、自分を客観視し、自分の行動をその真理の基準によって反省し、成長の度合いを自己認識できるのではなかろうか。

 この「毎月ニュース」の号数は今月号から3ケタになった。より高次元で普遍的な世界観に支えられた内容の枠組みになるよう、さまざまな体験を積んで構想力を磨いていきたい。
設備投資型産業と流通業

 企業が事業活動をすれば経費の発生は避けられませんが、経費は固定費と変動費とに分けることができます。固定費とは、売上の増減に関係なく発生する費用です。このかなりの部分を占めるのが「減価償却費」です。減価償却費とは設備の投資など投資時に必要とする資金(いったん「資産」とされている)を、その使用期間に分けて「費用化」していくものです。それに対して変動費とは、売上高に応じて増減する費用です。

 鉄鋼業や電鉄、通信事業を行う企業は多額の設備投資を必要としており、減価償却費等の固定費が多くかかりますが、このような企業は概して変動費率(売上高に占める変動費の割合)が低く、ある一定の売上高を超えるとすごく儲かります。一方、卸売業や伝統的な商社などは、それほど多くの設備投資を必要としませんが、仕入などの変動費が多くかかるため、利鞘も限られています。

損益分岐点分析

 企業のあげる売上高のうち、「売上高と費用が一致する売上高」を損益分岐点売上高と言います。損益分岐点の位置は、「損益分岐点売上高÷実際の売上高」で計算されます。例えば、損益分岐点売上高が80で実際の売上高が100ならば、損益分岐点の位置は80%といいます。これは損益分岐点比率とも呼ばれます。そして「100%から損益分岐点比率を引いたもの」を安全率とか安全余裕率と呼びます。安全率とは「売上がどのくらい減ると赤字になるか」を示しています。

全部原価計算と直接原価計算

 財務会計上、一般に公開されている損益計算書では「売上高」から「売上原価」「販売費及び一般管理費」「営業外損益」「特別損益」などを順に控除していき、最後に「当期純利益」を算出します。この損益計算書を作るやり方のベースになっているのが「全部原価計算」という考え方です。この全部原価計算には大きな欠点があります。

 全部原価計算の損益計算書では、「売上原価」は「製造原価」の中で「売れたもの」だけが売上原価になり、売れ残りは「棚卸資産」つまり在庫として貸借対照表の資産として計上されます。つまり、在庫分のコストは損益計算書には行かずに資産として貸借対照表に保留されるのです。このような計算方法だと、生産量が多くなればなるほど製品1個当たりの固定費が減少して、製品単価も減少するので、大量に作れば作るほど1個当たりの製造原価は下がり、損益計算上の利益は表面的に増えることになります。これでは、短期的に自分の製造部門の業績を上げたい工場長や、会社の利益をかさ上げしたい経営者は、この仕組みを悪用することにもなりかねません。

 この全部原価計算書の欠点を克服するのが「直接原価計算」という考え方です。外部に開示することを目的とした財務会計上の概念ではなく、企業内部でそのパーフォーマンスを把握するために開発された管理会計上の概念です。直接原価計算では、売上高から変動費を引いた額(「限界利益」)から固定費を全額引きます。そして最終的な利益を計算します。このようなやり方をすれば、固定費が資産に計上されませんので、操業度の変化にかかわらず損益が正確に把握できます。

 直接原価計算にはこのような大きなメリットがありますが、社外に開示することを目的とした財務会計では全部原価計算が用いられています。その理由は、財務会計には売上高の計上と費用の計上をできるだけ一致させようとする基本的な考え方があるからです。ですから、モノを製造しても仕入れを行っても、それを一旦すべて「棚卸資産(在庫)」に計上し、それらが売れた時点で費用化するという考え方が、全部原価計算の基本的な考え方なのです。