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This is the archive for August 2011

2011/08/15

 人間が動物と違って素晴らしい文化を創ってきたのは、真・善・美・聖という価値を追求する欲望と、それを実現しようとする欲望が、原動力になっていると思う。

 古今東西の著名な科学者や哲学者は、読んでもよく分からない科学書や哲学書を体系的な一貫性を持って書くのだから、真理探究への情熱には敬服する。しかし、そのように価値追求に熱心だからといって、価値実現に熱心とは限らない。立派な書物を完成させても、そのことを周囲の人の幸福や人類の平和や福祉に結び付ける意欲を欠けば、変人と言われかねない。ある高名な哲学者は、大学で教壇に立ち学生を前に講義をする時間なのに、考えるのに忙しくて何十分も無言で立っていたという話を聞いたことがあるが、価値実現にもっと意欲を持ってほしいと思う。

 一方、あることの価値が最高だと信じて普及に熱心な人は、価値実現欲の旺盛な人と言えよう。24時間そのことを考え、早朝でも深夜でも普及活動に飛び回る価値実現の情熱には敬服する。しかし、そのように価値実現に熱心でも、価値追求欲が弱いと、自分が実現しようとしている価値を全体の中で位置付ける努力がおろそかになり、周囲との調和を欠いて、変人とみなされかねない。例えば、特定の宗教の普及活動に熱心なのは、そのこと自体は良いことでも、他の宗教もやはり同様の目的を持っているのだから、他の宗教を攻撃してまで自分の信じる宗教を普及させようとするのは、偏狭で自分勝手と言われても仕方がない。

 知り合いのМ氏は、両方の欲望のバランスがとれていて素晴らしい。大学時代に専攻科目以外にキリスト教と外国語に関心を抱き、熱心に学んだ。卒業後、米国等で10年以上住んで事業活動を行ったのち日本に戻り、貿易事業をし、その後地元の中小企業に優秀な外国人実習生を紹介する活動をしている。従業員を雇用する企業の経営者であるとともに、牧師として説教もする。貿易事業でロシアに行った時は、ロシアの同業者から酒と女性の提供の申し出を受けても固辞する「変わり者」で有名だったという。海外からやってくるバイヤーにも流暢な英語で、皇室などの日本文化の本質を分かりやすく説明し尊敬を集めている。

 М氏はなぜバランスがとれているのだろうか。海外生活を通して様々な価値観があることを知り、世界全体を包括的に把握するための精度の高い情報を得ようとすることが、価値追求に貪欲に向かわせているのではないか。とともに、キリスト教倫理を生活で体現しつつ企業経営することが、価値実現につながり、高次のレベルで相互補完しているのだと思う。

 創造主たる神は、人々が相互に啓発し合いながら幸福に向かうようにと価値実現欲を与え、向かうべき真・善・美・聖の価値がより高次元の普遍性を備えるようにと価値追求欲を人に埋め込まれたのだとすれば、両方の欲望をバランスさせることが、とても大切と思う。