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This is the archive for October 2009

2009/10/15

 憲法は公法であり、国家と国民の間を規律するものですから、人権の妥当領域として私人間の私法関係に、適用はないというのが原則です。

 重要な判例として三菱樹脂事件(最判昭48.12.12)があります。東北大学出身の学生が三菱樹脂の就職内定をもらいますが本採用を拒否されます。この学生は在学中に学生運動に参加していましたが、会社にうその申告をしていました。学生が労働契約関係の存在確認を求めて提訴しましたが、「企業者は契約締結の自由があり、労働契約締結にあたり、思想信条を調査しそれを理由として本採用を拒否しても構わない」という趣旨の判旨が出ています。

「間接適用説」が原則論であり通説

 しかし、判例において、私人間の訴訟に憲法の影響が全くないかというと、そうではありません。ではどのような理論構築がなされているのかを見てみましょう。

 学説の中には、憲法の人権規定は、私人間にも直接適用されるという説もあります。しかし、支持者は少ないのです。なぜなら、私人間で、人権が保障されているか否かを国家が監視することになりかねないからです。私的自治の原則が脅かされ、プライベートの領域がなくなってしまうわけです。

 しかし、実際には、私人間と言ってもその力量の差はさまざまです。巨大企業という法人が、市民や従業員個人の人権を侵害した場合、その事例に関する立法がなされていない限り、裁判所は何も口出しができなくなります。

 そこで、間接適用説が判例・通説であり、具体的には、民法の一般条項(例えば90条、709条)の解釈に際して、憲法の精神を斟酌するという方法論を取ります。私人間には憲法の条文の直接適用・類推適用はしないものの、民法の条文の適用をする際に、その解釈上憲法の精神を取り入れるというわけです。例えば、私人間で合意が成立しても、憲法の精神に反する合意であれば、民法90条の公序良俗違反だから無効だというわけです。

 重要な判例として日産自動車事件(昭56.3.24)があります。この会社には男子の定年が60歳、女子は55歳という就業規則がありました。そこで、定年退職を命ぜられた女子従業員が、日産自動車を相手に女子を差別するのかということで争ったところ、女子従業員が勝ちました。日産自動車の就業規則のうち、女子の定年を男子より低く定めた部分は無効というのが裁判所の結論です。無効の理由は民法90条(公序良俗違反)です。これは社会的に大きな反響を呼び、この判決後、各企業において就業規則の見直しがされることになりました。

直接適用の条文

 今まで述べたことは原則論です。憲法の条文の中には、例外的に私人間にも直接適用される条文が存在します。例えば、
・憲法18条 奴隷的拘束及び苦役からの自由
・憲法28条 労働基本権(労働者の団結権・団体交渉権・団体行動権)等があります。
 18条は、ことの性質上、当然私人間にも適用があり、28条は私企業においてこれらの権利保障が及ぶことは世間常識と言えるでしょう。