Skip to main content.
*

Archives

This is the archive for June 2008

2008/06/15

 権利の主体となりうる能力を「権利能力」と呼びます。権利能力を有する者は、生きている個人と個人以外の団体です。前者を自然人といい、後者を法人といいます。ここでは紙面の関係で法人については述べません。

権利能力の始期と終期

 「私権の享有は出生に始まる」(3条1項)とあるように、人は出生によって権利能力を取得し、「相続は死亡によって開始する」(882条)とあるように、権利能力は死亡によって終わります。

 権利能力の始期が「出生」であれば、胎児が生まれる前に父が死亡すれば、相続ができないことになります。生まれてから父を殺した者に向かって損害賠償を請求することもできなくなるかもしれません。父と子の権利義務による結びつきは一度も生じなかったと言われそうだからです。民法は、胎児のこのような不利益を救うために例外を設けます。損害賠償請求(721条)、相続(886条)、遺贈(965条)と重要な場合を拾って「胎児は既に生まれたものとみなす」と定めました。

 権利能力の終期について問題となることの一つに地震や船の沈没など同一の危難で多数の者が一緒に死亡し、誰が先に死んだか分からない場合があります。例えば父と子が事故によって相前後して死亡したとき、どちらが先に死亡したかによって相続関係が大きく変わることがあります。そのような場合にどうするかについての規定がないまま、洞爺丸事件(昭和29年)や伊勢湾台風(昭和34年)が発生しました。それで昭和37年に「同時死亡の推定」の規定(32条の2)が設けられ、複数人の死亡の前後が不明なときは同時に死亡したものとし、お互いがお互いを相続しないものとしました。

行為能力と制限行為能力者

 高齢化社会の進展に伴い、平成12年には成年後見制度がスタートしました。無能力者の名称を改めて制限行為能力者とし、次の四種の形式的基準に該当する者は、たとえ判断能力があるにしても、経済的な自衛力ないしは競争力において一般に通常人より劣る者であるとみなして、一律にその行為を取り消しうるものとしました。これらの者を保護するためです。

 未成年者は単に権利を得または義務を免れる行為というような、利益にはなっても不利益に決してならない行為は単独でやれますが、それ以外は法定代理人の許可(同意)を得てやらなければなりません。そうでないとその行為は取り消すことができます(5条・6条)。成年被後見人は日常生活に関する行為以外の行為は単独ではやれません。後見人の同意を得てやった場合でも取り消せます(9条)。被保佐人は一定の重要な行為をするには、保佐人の同意を得なければなりませんが、それ以外は単独でやれます(13条)。被補助人は家庭裁判所の審判により特定の法律行為に補助人を要するとされた者です(15条以下)。要するに、行為能力の制限ということから見れば、被補助人の制限が一番弱く、次に被保佐人・未成年者、成年被後見人という順番になります。

(我妻榮『民法案内2民法総則』勁草書房を参考にしました)