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This is the archive for September 2004

2004/09/15

 NHK教育テレビで、朝8時から「にほんごであそぼ」という番組がある。子どもたちが好きでよく見ているので、おのずと見ることがある。宮沢賢治の「雨ニモマケズ」の詩を、全国各地の一般の人がその地方の方言で唱えたり、就学前と思われる子どもが「為せば成る為さねば成らね何事も、成らぬは人の為さぬなりけり」という大人でも言うのが難しいことわざを、上手に暗唱したりしている。

 幼児の時に、訳の分からない言葉を覚えさせて何の意味があるか、という反論があるようだが、重要な意味がある。世界的な古典を記憶力の旺盛な時に丸暗記したり、漢文の素読をして育った子どもは、自分の内に大きな財産を持って生きていくことになる。言葉の意味が分かる年代になって、真理の言葉や含蓄のある言葉がおのずと自分の内から出てくれば、真理が血肉となっているようで、それは必ず生きる指針となると思う。

 音楽、絵画、芸能、書道など様々な伝統文化のなかで、子どもに対する教育的効果の大きいものとして、私は音楽、とりわけ歌に注目している。言うまでもなく歌は曲を伴った詩であり、表現される情感が自分が過去味わった思いと類似していると、感慨に浸ることができて心が癒される。とともに、勇気、正直、勤勉、忍耐、真理を喜ぶというような徳目が肯定的に表現されている歌が情感豊かに歌われるのを、小さいときから繰り返し聞いていれば、それだけでその子どもの精神は立派になっていくことが多いのではなかろうか。

 そう思って私は、子どもが小さいときには家の中でも車の中でも、子どものそばで歌ってきた。歌を歌うという行為において一番重要な事は、選曲、つまりどういう歌を歌うかということだと思う。子どもには、自分自身が感銘を受けたいくつかのゴスペルフォークや、りりしさが感じられる「富山県民の歌」のような歌を、繰り返し情感を込めて正確に歌うよう努めてきた。親として子どもを育てる義務の8割は、この瞬間心を込めて歌うことだという思いで歌った。

 文化は、日常生活を豊かにしてくれるとともに生きる力を与えてくれる。いわば、人生の応援歌のようなものだ。新しい歌謡曲等の中にも心に響く良い歌はあるし、他の文化の分野でも新しい試みがなされ、内容を豊かにしている。とともに、長年愛されてきた伝統文化は人類の遺産であり、一つ一つの作品を想像力をめぐらして味わっていきたいと思う。

 人の心を動かすには三つの方法があるという。一つは、利益で誘導する方法、二つ目は恐怖を与えて思い通りにさせようとする方法。三つ目は人生に対する心構えを整えさせることを基本とする方法だ。このうち、人生の豊かさを体験するのに最適なのは、三番目の方法だと思う。音楽や小説、映画等の文化の中から、人生に対する心構えを整えさせてくれるものを選んで、家族や友人を始め多くの人と共有していきたい。