『津波の霊たち』(リチャード・ロイドパリー、早川書房、2018年)
 2011年3月11日、東日本大震災により大きな被害が発生した。宮城県石巻市の大川小学校では74人の児童と10人の教職員が津波に呑まれ亡くなった。在日20年の英国人ジャーナリストである著者は、徹底した取材により真相を描き出した。
 取材に応じてくれた被害児童の遺族たちの話を丹念に集め、分かりやすいように記述するとともに、その遺族たちの家を、北上川下流地域の釜谷地区の地図上に位置付け、取材事実とつなぎ合わせることにより、被害児童・教職員たちは津波のやってくる方向に向かって避難していたことが明らかとなる。亡くなった児童の何人かは、「先生、山さ上がっぺ。ここにいたら地割れして地面の底に落ちていく。おれたち、ここにいたら死ぬべや」と叫び裏山への避難を提案するが、実際にはその逆の方向へと避難を始めたことが、生き残った児童たちの証言で明らかになった。
 本書では、生き残った教職員らが、市が遺族たちに対して行った説明会での、普段はおとなしい東北の人たちの激しい追及と市当局の煮え切らない対応ぶりが描かれており、著者は「問題は津波ではなかった。日本が問題だったのだ」とする。
 また、死後の世界の子どもたちの様子を霊媒師が紹介しており、「戦争の犠牲者たちの魂を慰めに行きたい」と発言するなど魂の進化の様子を報告し、遺族たちは受け入れられない愛する者の死と折り合いを見つけていく。

『インディアスの破壊についての簡潔な報告』(ラス・カサス、岩波文庫、1976年)
 インディアス(スペインが領有した南北両アメリカ大陸の地域、西インド諸島及びフィリピン群島)発見後、スペイン人は無辜の人々を殺害し、王国を破壊してきた。
 この地に50年以上にわたり過ごし残虐行為を目撃してきた司教であるラス・カサス氏が、スペインの皇太子フェリペ殿下にその内容を報告し、残虐行為を行う者たちが征服と呼んでいるたくらみを、今後容認したり許可したりすることがないよう依頼した文書。40年間で男女、子ども合わせて1200万人を超える人たちが、キリスト教徒の行った極悪無残な所業の犠牲となって生命を奪われたという。

『日本語はなぜ美しいのか』(黒川伊保子、集英社新書、2007年)
 赤ん坊が母親が話す「アサ、オハヨウ」という言葉に触れると、これと共にある情景、すなわち透明な朝の光や、肌に触れるさわやかな空気などが、抱き上げてくれた母親の弾むような気分と共に、脳の中に感性情報としてインプットされていく。人生の最初に出会ったことばと、後に習った外国語とでは、脳内で言葉に関連付けられた感性情報の量が圧倒的に違うようだ。
 それなのに母親の母語でないことばで子どもを育てると、言葉の語感と母親の意識、所作、情景がずれて、子どもの脳は混乱して、感性のモデル(仕組み)を作り損ねるという。母語でないことばで育てると、世界中どこへ行っても異邦人のように感じて生きることになってしまう。
 著者は大学の物理学科を卒業した後、コンピューターメーカーでAI(人工知能)開発に携わり、脳とことばを研究した。その中で、人間の精神活動において母語が決定的に重要であることに気付いたのだと思う。「わが子にことばを与えるということは、宇宙を授けるのと一緒」という。